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▼ 12 私達は共犯、私達は人質

「ね、ねえ、何処に向かってるの」
「どうみてもシュテルンビルト市街地ですよね」
「えっ? 帰るんじゃなかったのっ?」

再びバイクにまたがり走り出すと、どうにも方向が違う。
シルバーステージの幹線道路を走り抜け、橋に差し掛かった。
どう考えてもアカデミーへの帰り道ではない。

「だってまだスカイハイ見てないし」

「ねえ、やっぱり帰ろう……バレたら大変なことになるんじゃ……」
「だーいじょうぶだって。 寮の点呼はドア越しだし、もう終わってるし。
エドワードに代返頼んだんでしょ?」
「でも……」
「あのねぇ、来たくないなら来なきゃ良かったでしょー。
こっそり寮から出てきた時点で共犯なの。完全犯罪目指して協力しましょーね、イアン」

完全犯罪。

ヒーローアカデミーの生徒としてその思考はどうなんだとイワンは思ったが口には出さなかった。

バンケリングリバーを渡りきりシュテルンビルト市街地に入る。

「さあ!スカイハイさがすよ!」











「わぁ、見てごらんよイアン。私らと同じ事考えてる人たち多いんだね……」
「うん…」

市街地に入ればすれ違う人という人が双眼鏡片手にうろうろしていた。

上を見上げ、携帯をいじる人々の多さにリツは頬をひくつかせた。

ネットの目撃情報をチェックしようと携帯を開いたとき、イワンが口を開いた。

「ねぇリツさん、この音って」
「ん?」

だんだん大きくなるジェット機のような音。

「!」

周りの人々も気づいたようで、皆上を見上げている。

「あ……スカイハイだ」
「どこどこっ?!」
先に見つけたらしいイワンの肩越しに夜空を見上げる。

「ほら、あそこだよ。あ……今はビルの影だけど……」

ほら、とイワンが指をさす先をリツは目を細めて見た。

「んー……? 」
「あ、ちょっと見えたよ。あそ……こっ!?」

リツに教えようと振り返れば、至近距離にリツの顔があった。
思わず肩が跳ねる。 けれどもリツは全く気にしていないようで空ばかり見ていた。

「あっ! 見えた!!」

ぱっとリツの顔が輝く。
「見えた見えたー! すごい、ほんとに空飛んでる……いいなぁ……」

いいなぁ、とリツはうっとりと目を細める。
「ヒーローアカデミー出身じゃないんだよね。
スカウトされたとかすごいなぁ……」
「うん。 僕もあんなふうにかっこいいネクスト能力だったらな……」

「……あー、行っちゃった」

スカイハイはどんどん遠ざかってゆく。

「ねえイワン」
「!」
(名前!)
間違えることなく名前を呼ばれ、イワンはなぜか頬が熱くなった。
きっとリツから呼ばれなれてないせいだ。そう結論づけ、おさまれおさまれと深呼吸をする。

「今日はさ、もう帰んなきゃだけど、今度はもっと近くでみたいね」
(今度……また誘ってくれるかな)

「うん、そうだね……」










「ねえイアン、私ら何か悪いことしたかなぁ?」
「えっと、こうして寮抜け出してること自体ダメだよね……」

代返のお礼にとアカデミー近くのコンビニでお菓子とジュースを買っていたら、黒づくめの男ふたりが怒鳴りながら入ってきた。

そして、二人を含むコンビニの、買い物客と店員が人質に取られいわゆる立てこもりというやつに巻き込まれてしまった。

犯人の要求はアッバス刑務所にいる仲間の開放だった。
まともに取り合っていれば朝がきてしまうことは確実の長丁場な案件。

「どうしよ。ねぇイアン、なんか小さいものに擬態した方がいいよ」
「……どうして?」
「外見てごらん、ヒーローTVのカメラがある」
「……ほんとだ。」
「もしかしたらスカイハイに会えるかもしれないね。
けどさ、私ら映ったら、抜け出してるのバレるよね」
体育座りでたんたんと、しかし若干青ざめているリツが遠い目をした。

「なんかもー、ほんとごめんイアン」
せめてもの抵抗で後ろを向く。
今は私服だし顔さえ映らなければなんとかならないかな、とのぞみの薄い期待を抱いた。

犯人の1人は入口で市警のネゴシエーターに怒鳴っている。
もう1人は銃を人質に向けてガムをかんでいた。

(二世代前のアサルトと……ニューナンb?……)

幸い人質は縛られていない。
きっとそのうちヒーローが駆けつけるだろうし、見るからに銃を打ちなれていないヒョロヒョロの犯人を見るによほど激高しない限り発砲はないだろうとリツは犯人を観察していた。


「おいお前! こっちに来い!」

「!」

ニューナンbらしき手のひらサイズの銃を持つ男が一人の女性に声をかけた。

女性は恐怖から震えてしまっているし、時計は23時を回っている。

「!」
スカイハイのあのジェットパックの音がする。
そしてトイレのほうこうからかすかな音がした。

視線を向ければ
「…………」
パッと見誰もいないように見えるが、手洗い場の鏡に青いものが写り込んでいた。
(わー……間抜けだぁ……)

あの深い青のスーツはワイルドタイガーだろう。

リツはそっとイワンの耳元で囁いた。
「イワン、トイレからヒーローが来る。
ヒーローが飛び出してきたらなんでもいい、私が持ち運べるサイズのものに擬態して」

ワイルドタイガーが飛び込んできたら擬態をしたイワンを持ってトイレの窓から逃げる。

正面から出てはカメラに写ってしまうので苦肉の策だ。

だからといって中継が終わるまでコンビニの中にいても警察の聴取が待っている。

(私が誘ったのにイワンの経歴に傷をつけるわけにはいかないし)

ぎゅ、とイワンの手を握る。
「!」
(えっ? なにどうしたのリツさんっ!?)

聞きたくてもあまりこそこそと話していては犯人を刺激しかねない。
「……」
リツはイワンの手を握り、目を瞑って膝に顔をうずめた。

それを不安や恐怖によるものだと判断したイワンは自分も怖いが、少しでもリツの気持ちが和らげばと、もう片方の手でリツの頭をなでた。
「……」
(イワン……違う……嬉しいけど違う……)

嬉しい。
そう思ってしまったことにほんの少しリツの頬が赤らんだが、顔を伏せたまま知らないふりをした。




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