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▼ 11 スカイハイ

「マンスリーヒーローじゃん、新しいヤツ?」

休み時間、イワンは今日発売されたばかりのマンスリーヒーローを広げていた。
「うん、朝売店で買ってきたんだ」

リツは表紙を覗き込み「お」と声を漏らした。

「スカイハイじゃん」
「うん。空飛べるなんてすごいよね……風使いかぁ……」
表紙と巻頭は10月にデビューしたばかりのスカイハイだ。
片手を胸に当て、もう片方の手を上に掲げポーズをとっている。

「イアン中継見たことある?」
「うん。 すごかった」
「だよね。 あれはやばい。」

やばい。語彙力が麻痺するほどスカイハイの活躍は素晴らしかった。
空を飛んで現場に一番乗り、犯人を風で巻き上げ自由を奪い確保。

「公設ファンクラブも会員数うなぎ上りなんだってね。 すごいよねぇ」
「リツさんは入るの?」
「いんや。 家族にバレるとめんどくさいから入らないよ。
イアンとエドワードがヒーローになったら一番に入会するけどね!」

リツは親指を立てて言い切った。
(僕はなれそうにないけど)
「僕もエドワードがヒーローになったらファンクラブに入るよ」
「スカイハイのは?」
「あ、それはもう入ったんだ」
「……仕事が早いねイアン」

ぴら、とページをめくればそこにはパトロールについてのインタビューがあった。

「おお……毎日夜見回りしてるんだ……ヒーローの鑑だね」
「見てみたいな……」

見てみたい、とつぶやいたイワンの顔をリツは覗き込み目が合うとにかっと笑った。

「見に行ってみる?」










夜9時。
イワンとリツはこっそりと寮を抜け出した。

学校の敷地を出て近くの公園のトイレ裏に連れていかれ、そこに停めてあったバイクに二人乗りをしている。

リツがバイクを盗むつもりなんだと勘違いしたイワンは慌てふためきリツを説得しようとしたが、
スペアのキーを見せられ事情を説明されてやっと落ちついた。

リツには協力者がいるらしい。

フルフェイスのヘルメットを被り、イワンもバイクの後にまたがりリツの腰に手を回す。

「リツさん免許持ってるんだ」
「いや、年齢が達していないので無免許ですが何か」

「…………え?」
「はい、しゅっぱーつ!」
「待って! 待ってリツさん!!」
「あっは、エンジン音で何言ってるか聞こえないわー」

(聞こえてるじゃないか!)

イワンはバイクに乗るのは初めてで、
風が体に当たる感覚と、先ほどのリツの無免許発言でゾワゾワと恐怖がせり上がってきた。

ぎゅう、とリツの背に抱きつくようしがみつけばれば、
リツは腹部に回されたイワンの手を安心させるように撫でた。


「大丈夫、今まで無事故だから。
でも職質されないように堂々としててね!!」

(リツさんが不良だったなんて)

真面目そうな見た目なのに、人は見かけによらないな、とイワンは改めて思った。



メダイユ地区ノースシルバーに
入ったところで路肩にバイクを止め、リツは携帯を開いた。

「んー……メダイユのパトロールは終わって市街地に向かったみたい」
「どうしてわかるの?」
「掲示板。 ほら、目撃情報って書いてあるでしょ? 」

(見れなかった……)

勇気を出してリツとメダイユ地区に来たが、タイミングが合わなかった。
残念だな、とイワンはヘルメットのシールドを戻した。

(ん?)

一瞬リツの体が僅かに光った。
街頭に連なるネオンでほとんどわからないくらいの
かすかなネクストの光。
「リツ……?」

どうしたの、と声をかけようとしたところで、後ろから声をかけられた。

「君たち、何歳? 子供だけで出歩いちゃダメだよ。 ちょっと免許証と市民ID見せて」

「!」

(お、終わった……)
振り向けば市警の制服を着た男が立っていた。

(きっとこのまま補導されて学校に連絡されて退学もしくは停学になって、ヒーローにはなれそうにないけどこれじゃ確実にヒーロープログラムの査定に響く……もう終わりだ……)

あわあわとしているイワンの前にリツが立った。

「あらやだ。 そんなに私若く見えるのかしら」

リツはシートを開けるとカードを取り出して警官に差し出した。
「親戚の子を送るとこなの」

ヘルメットのシールドを上げれば警官はカードの写真とリツの顔を見比べ、失礼しました、とカードを返した。

「引き止めて申し訳ない。 お気をつけて」
(へ?)

予想外の言葉に思わずイワンは顔を上げた。
警官の背中とリツの背中。

また一瞬リツの体が光り、カショ、とシールドを下げた。

「リツ、さん?」
「セーフ……」

とりあえず助かったのかな、とイワンは首をかしげる。
(だけど、どうやって……?)

「さ、行くよ」
リツはバイクにまたがるとエンジンをかけた。

「うん……」

またもう一度イワンはリツのお腹に手を回した。



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