▼ 8 ごはんを食べながら
「……和食もある……」
「なに、和食好きなのイアン」
「オレ日替わりのA」
「あーどうしよ、ハンバーグも捨て難い……でもサバも食べたい… 」
昨日のオリエンテーションで日替わりランチの無料パスを勝ち取った三人は午前の授業が終わるとカフェテリアに来ていた。
「じゃあ私Bにする」
イワンもリツと同じく和食風のBランチを選択した。
カフェテリアは日当たりがよく、既に半分ほどのテーブルが埋まっていた。
メニューは日替わりの他にも充実しており、デザートも何種類かあるようでそのうち食べてみようかとリツは貼られた写真を見上げた。
カウンターで受け取り空いているテーブルにつけばフウ、とエドワードがため息をついた。
「どうしたのエドワード」
「お前ら疲れねぇの? 朝からジロジロ見られてさ」
「えー? 見られてるのはほとんどエドワードだよ。昨日すごい能力見せちゃったんだから仕方ないじゃん。 ね、イアン」
いただきます、とリツは手を合わせ味噌汁に箸をつける。
「イワンのもスゲーだろ。 鬼の先輩に擬態した瞬間も貼られてたぞ」
「……僕の擬態は見た目だけだから……」
味噌汁を飲み鯖の身をほぐす。
「リツは運動神経いいよな」
「……どうせ役に立たないネクストですよー」
今回の事は母親の趣味に助けられた。
でなければ子供の姿になるだけのネクストでは到底ランチ無料の権利を得ることは出来なかっただろう。
「勇気あるよな、2階の窓から飛び降りたり、非常階段から飛び降りたり」
「え、なんで知ってるの?」
「あれだ、ゴールした後先生たちとドローンで上から撮影してた映像見てた」
「……あー、さっさとゴールしたエドワード様は余裕ですことー」
「あれは本当に同情した。 大変だったなイワン」
名前を呼ばれぴくりと肩を揺らした。
「あ……僕は何も……途中リツさんに抱えられてただけだし」
「それはあれかな、イアンくん。 最後抱えられてゴールした私への「そっ、そんなつもりじゃ……」
「お前ら仲いいのな」
エドワードはパンに裂け目を作りハンバーグとポテトサラダをはさみかぶりついた。
「まあ、戦友かな」
「せ、戦友……」
「あれ、イアンお箸うまいねぇ」
何の脈絡もなく話が飛ぶ。
リツの目はイワンの手元を見つめていた。
「こいつ、ニホン好きなんだぜ」
「そうなの? なんでエドワードが知ってるの」
「オレら同室だし」
「……は?」
同室ならレクリエーション協力してやれよ、と思ったが、自身もハンナとは別行動を取ったのでその言葉はサラダとともに飲み込んだ。
「私服もワガラのやつ持ってたしな」
「えっ エドワードっ!」
やめてよ、と言うイワンの頬が赤くなっている。
「そうなんだ。 私14歳までそっちにいたよ」
「!」
うつむきがちがったイワンが顔を上げた。
「へぇ。日系ぽい見た目だとは思ってたけど、そうなのか」
「半分なんだ。 パパがこっちの人で……パパの仕事が変わったからママとこっちに引っ越してきたの」
「じゃあ、日本語わかる……?」
「もちろん。 そのかわり英語の読み書きが時間かかるんだ」
もちろん、と答えるとイワンの目が輝いた。
「ね、ねぇ、日本語教えて……くれたりとか……ダメ、だよね……?」
尻すぼみになるイワンの言葉にリツは笑顔で答えた。
「もちろん、いいよ。 代わりにたまにノート見せて」
こくこくと表情は乏しいが、それでも嬉しそうにイワンは頷いた。
ポケットの中でケータイが震えた。
「あ、ごめんちょっと電話してくる」
席を立って食べ終えたランチのトレイを持ち、返却口に突っ込んでリツは電話に出た。
「もしもし」
『おう、元気かリツ』
「まあね」
『それならいい。 随分と派手に目立ったようだな』
「げ、なんでもう知ってるの!」
『うちの会社はヒーローアカデミーと懇意にしてるもんでな。 校長先生が連絡くれたぞー。
姪御さんが大活躍でした、ってな』
「心配しなくても子供にしかなってないよ」
『頼むぞ。本当の方は隠しとけ。 じゃなきゃうちに就職した時困る』
「……はい。 でもね、ランチが一年間無料になったんですよねー」
『……何が言いたいんだ?』
「ほら、学生のお小遣いと昼食事情が、ほら」
ああなるほど、とリツの伯父は理解した。
『お前のママには内緒だぞ。 小遣い送るわ』
「さすが伯父さん話がわかる!」
『小遣いやるんだから! もし次似たような行事があっても絶対ばらすなよいいな!』
「はーい」
ぽち、と通話を切る。
たんまり小遣いをもらえるならば、今後こういう行事があったとしても心穏やかにいられるだろう。
上機嫌でリツは二人の元へと戻った。
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