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▼ 7 写真に映るキミの姿、記憶されたキミの眼差し

「大丈夫、リツ」
「はは、無理、助けてハンナ」

オリエンテーションの次の日、リツは全身筋肉痛でベッドの上で泣きそうになっていた。

「昨日すごかったものね」
「先生捕まえておいてくれたハンナたちのおかげだよ」
「だって鬼が本当に酷いのよ。誰もゴールさせないつもりなんてありえない。
だから一番ゴールできそうなリツたちを助けようって話になったのよ」

「……なるほど」
ぎぎぎ、とオイルのさされていないマシンの音が効果音として聞こえてきそうな動きでリツは起き上がった。

「痛み止めでも飲む? 少しは動けるようになるんじゃない」
「のむ」

はい、とハンナはアルミシートを手渡した。
「あげる。朝ごはん食べたら飲んでねって……あー」
リツはハンナの言葉を聞かなかったことにしてパキリと錠剤を出して口に放り込んだ。











「うわこれイジメか何かかな」

朝食を摂り、薬の効き始めたリツは校舎に足を踏み入れた途端固まった。

笑顔の校長と、その後に掲示されたたくさんの写真。
「あぁ〜〜おはようございますリツさぁん!」

校長が両手を広げてハグを求めてきた。
「あ、おはようございます、どうも。はは……」

校長の肩越しに見えたお知らせなどの掲示物の中に、昨日のリツ、イワン、エドワードの写真が引き伸ばされデカデカと張り出されていた。

「昨日はとても素晴らしかったですよ!
しかも三人もゴールしたなんて快挙です。 きっと素晴らしいヒーローが誕生するでしょう!!」

「……」
(ヒーローは目指してないんだけど……)

ハグを返すことなくリツは棒立ちになっていた。
「これ、カフェテリアのパスです。 一年間有効ですので活用してくださいねぇ〜」
「あ、どうも」

そうだ、リツの目的はこれだった。

「ああイワァ〜〜ン! 昨日の活躍素晴らしかったですよぉ〜〜!」
「ひぃっ」

後ろから短い悲鳴が聞こえた。振り返れば先程のリツと同じ目にあっているイワンの姿があった。

ご愁傷さま、と校長の肩越しに見えたイワンに対し小さく手を振った。

「!」
(リツさん!)

「わぁ、ケディくんって地面に潜れるネクストなんだねぇ」
「あ、ほんとだ」
ハンナのゆびさす写真を見れば、エドワードの半身が地面に埋まっているものもあった。
「これは……すごいね。 ヒーローともかぶってないし、ヒーロー向きの能力だし」
(ちゃんと自力でゴールしたし)

リツもしげしげと写真を眺める。

壁を走る鬼に捕まえられスタンプを取り消されたイワン。
二人で一緒に走る写真
転んだリツに気づいて振り向いたイワン。
急にターンしたものだからバランスを崩しかけて、それでもリツに必死に手を伸ばすイワン。

「……」

イワンに抱えられ教師の元へと走る写真。

転んだ時の、手を伸ばしてくるイワンの真剣な表情、目が昨日から何度もちらついて落ち着かない。

『リツさん!!』

(初めて名前呼ばれたな……)

写真に映るイワンはどれも真剣な目をしていて、見ているうちにリツはなんだかむず痒いような変な感覚がして胸元をさすった。

「やあおはようイアン」
校長から開放されげんなりしたイワンに声をかける。
「お、おはよう……あとイアンじゃなくて僕は「さ、早く教室行こ!」

リツはイワンを笑顔で遮り、顔をのぞき込んだ。
「!」
イワンはぎくりと体をこわばらせ顔を背けた。

(うーん、なんだろ、この感覚)
リツはまた胸をさすりながら首をかしげた。





「エドワードおはよー」
「はよ。 お前ら校長になにかされなかったか」

教室に入り挨拶をするなり、それ。

「てことはエドワードもやられたわけね、アレ」
「……そうか、大変だったな」
エドワードはイワンとリツに至極同情的な目を向けた。

イワンはよほどショックだったのか、うつむいたまま自分の席に座ってしまった。

「ねえ、写真みたんだけどさ、エドワードは地面に潜れるネクストなの?」
「いや、砂、かな。地面だけじゃなくて壁にも潜れる」
「なるほど。いいなぁーかっこいい!」
「リツは縮むんだな」
「子供になるだけ。 特に有用性はない」
「アミューズメント施設子供料金でいけるな」
「ヒーローを志す人が不正を勧めないでよね」

それもそうだ、とエドワードはカラカラと笑った。

「絶対ヒーローになるんだ!」

強い意志を感じさせる瞳。

「応援してるよ、エドワード」

なぜこうもヒーローに憧れるのか。
リツは「なぜ」という言葉を飲み下し、笑って誤魔化した。

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