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▼ 6 キミのおかげ

全速力で走るも僅かに髪の伸びるスピードの方が早かった。
鬼の髪がまさにリツの腕に絡みつこうとした、瞬間。

「!」

リツは能力を発動させ、子供の姿になった。勢いを殺しきれずバランスを崩してゴロゴロと地面を転がる。
身長が縮み、髪は掴むべき腕が消えて空を切った。

すぐにリツは能力を解除し走る。

「イアン平気っ?」
『……大丈夫』
さらにあちこちグルグルと回り道をしてなんとか鬼を巻いた。

「こっから渡り廊下の屋根に登ってカフェテリアの屋根に行くよ。
そこから屋根伝いに一般常識の先生のところに行こう」

『なんか忍者みたい』
「イアンも同じこと出来るようになるよ。 パルクールだし。 教えてあげるよ」

リツはイワンの擬態した上着をマントのように肩にかけて袖を軽く結び両手を使えるようにした。

後方で誰かの悲鳴が聞こえた。誰かが鬼に捕まったのだろう。

振り向きもせずリツはコンクリ塀によじ登り、渡り廊下の屋根に上がればトタンがパリパリと軋んだ。

窓枠のサッシとダクトの出っ張りに手をかけリツは壁を登っていく。

「おっ 気合入った一年がいるな」

「!」
足元から声がした。
目だけを動かし確認すれば、壁を縦横無尽に走るネクストの鬼がいた。

「……うそん」

残り8分。

「悪いね、俺らさ、一人もゴールさせるなって言われてるからさ。」

笑いながら鬼は壁に足をかけた。
『ど、どうしようっ』
「もうダメかもわからんね」

ダメかも、と言いつつもリツはじっと鬼の動きを見ていた。

地面から鬼の足が離れ体が垂直になった。二歩、三歩と間合いを詰めてくる。

「っせい!」

リツは手を離し飛び降りた。

「お?」


着地とともに走り出す。
走り出した先は校舎の非常階段。

「逃がすかよっ俺のフライドポテト年間無料っ!」

『あ、先輩達もそういうのあるんだ……』
「これ誰もゴールできてないでしょ絶対!」
閉鎖の鎖を飛び越えてリツは非常階段を駆け上がる。

あちこちから頑張れー、と声援が聞こえてきた。
残り時間とスタンプの数からゴールを諦めた生徒の声だろう。

「うわっもう来た」
カンカンと何段か飛ばしながら階段を登るリツはチラリと下を見た。
既に鬼は2メートルとない距離まで壁を登ってきていた。
階段を上るより平面を走った方が早いのだから当たり前だ。

鬼がリツを捕まえようと手を伸ばした瞬間。

「せぇええええいっ!!」
「はっ?」

階段の手すりを飛び越え、壁を駆け下りた。
が、もちろんリツはそんなネクストではないので途中で壁から足が離れた。

「リツーー!!あと何のスタンプなのー!!」

「いっぱんじょおしきぃいいいいっ!!」

ハンナの声に落下しながら応える。
「一般常識! つかまえろっ!!」

あちこちから声が上がった。

膝でうまく衝撃を逃がして着地する。が、やはりかなりの高さから飛び降りたので一瞬足がジン、としびれた。

(あの鬼は壁などを走るだけで飛び降りることは出来ない、はず!)

上を見れば急いで降りてくる鬼の姿があったが待ってやる義理はないのでリツはまた走り出した。

残り3分。
「おい!! 職員玄関前にいけ!!」
「ありがとう!」

同じクラスの男子にすれ違いざまに声を掛けられた。
気づけば校舎の窓からほかの学年までが身を乗り出してリツに声援を送っていた。

「イアン、そろそろ復活した?」
『だ、大丈夫でござる』
「ござるっ、てっ」

リツは結んでいた袖を解き片袖だけをつかみぱっと肩から外した。

『戻るよ』
「うん!」

青い光とともに白いアカデミーのジャージはイワンの姿に変わった。

それを見てまた周りで歓声が上がった。

なおも走り、二人はグラウンド前に出た。 職員玄関前には両腕を生徒に拘束された教師と、赤毛のクラスメイトが立っていた。

もう少し。
もう少しでゴール。

「うわっ」
「えっ」

気の緩みからかリツがつまづいた。
「リツさん!」
イワンが振り返り手を伸ばす。
「行けイアン!」

残り30秒。















「ったく……行けって言ったよね私」
「ご、ごめん……でも」
「いいじゃないリツ! 3人もゴールしたのは初めてな快挙なんだし!」


ハンナはきゃあきゃあと喜びながら抱きついてきた。

満身創痍のリツたちの周りには人だかりができてフラッシュまでたかれていた。

「あの……リツさんにたくさん助けられたから……僕だけ行くなんて出来ないよ」
「私だってイアンが居なかったらほかのスタンプ集められなかったよ。イアンに助けられたさ」

あの時、ゴール間際でつまづいたリツをイワンは戻って抱えて走ったのだ。
「……公開処刑もいいとこだけど…………」

教師のところまで時間内にぎりぎりたどり着いた二人のスタンプカードにはしっかりとスタンプが押された。

「もーむり。疲れた。」
「お疲れさん。あんたら凄いのな」

「!」

赤毛の彼が手を差し出してきた。
「先にゴールして待ってた。 エドワード・ケディだ」
「っ、どーも。よゆうそうだ、ね」
手を握り返せば、楽しそうに笑った。
「まあな。 ニノミヤサン」
「リツでいいよ」

リツが肩で息をし汗だくなのに対し、エドワードと名乗った少年は随分と余裕そうに見えた。

「まあ、一時間前にゴールしてたからな。」
「え、まじ?」

おつかれ、とエドワードはイワンにも手を差し出した。

二人の握手を横目に、これでカフェテリアでのランチが無料だ、とリツは仰向けに地面に転がった。




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