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▼ 2 恋バナ全振りルームメイト

ヒーローアカデミーは寮制である。
入学に年齢制限はない為既婚者もいたりするのでそういう者は校外から通っているが、
特に理由のない者は大体が寮生活だ。

学生にひとり部屋などそんな贅沢はなく、二人部屋が常で、たまに欠員が出ればひとり部屋になることもあるらしい。

「私ハンナ。ハンナ・ルーカスよ、よろしく」
「よろしく。リツ・ニノミヤ リツって呼んで」

リツの同室は同学年の年上の女の子だった。
ハンナは白い肌にそばかすのある可愛らしい面差しで、気さくなタイプのようだった。

にこりとリツも笑顔で返し、荷ときを始める。

ヒーローアカデミーに制服はなく、授業は指定のウエア、休みの日は各々私服だ。
与えられた限りあるスペースにどう詰め込もうかと悩んでいると、ハンナが話しかけてきた。

「ねえ、リツはどんな能力なの?」
「……私は、子どもになるネクストだよ」
正確ではないが嘘ではない。真実を言うわけには行かない理由がリツにはあった。
「そうなの。後で見せてね! あたしは身長の5倍手が伸びるの。
届かないところに用事がある時は呼んでね」

「すごいね。 その時はよろしく」
(なんだっけ、体が自在に伸びる海賊の話があったような気がするな……)

服をハンガーにかけ、クロゼットにしまう。スキンケア用品にメイク道具、読みかけの本など適当に備え付けのデスクの引き出しにしまい、今度はデスクの上にあった教科書類のチェックをする。

「ねえ、リツは彼氏いるの?」
「……うん? 彼氏?」
「そう!」

思わず手を止めて聞き返す。
「彼氏なんていないよ。 そういうハンナはいるの?」
待ってましたとばかりにハンナは目を輝かせ語り出した。

「実はね、2歳年上の彼氏がいるの! セントラルの大学に通っていてね、付き合って2年になるのよ」
「へえ。 どんな人なの?」
「バスケットの選手でね、背が高くて笑顔がとっても素敵なの。 優しくて毎日電話をくれるの」

ハンナは止まらない。
他人の惚気話ほどつまらないものはない。リツは適当に聞き流しつつ、持ち込んだマスキングテープを教科書に貼り、タイトルにふりがなを書き込む。

「寮にいるからなかなか会えなくなっちゃってさみしいんだけどね、やっぱりネクスト差別があるから、ヒーローアカデミーを出ていた方がちょっとは風当たりが違うかなって……リツ?
なにしてるの?」

目をキラキラと輝かせ語っていたハンナはリツの手元を見て首をかしげた。
「私、14歳まで海外にいたから英語見てもパッと読めなくて。 会話は家族のおかげで小さい頃から覚えたからなんとかなるんだけどね……」
「そうなの。 分からないことがあったら教えるからなんでも訊いてね」

「そうさせてもらう。 言葉遣いや表現がおかしかったら訂正してもらえたら嬉しい」
「あ、でもそれなら恋人を作るといいわよ」

また話が戻るのか、とリツは顔に出さずげんなりした。
「愛の力ってすごいのよ。 会話は問題ないなら、メールで上達すると思うの」
「うーん、私理想高いから彼氏なんてまず無理だと思う」

年頃の女子がする話といえばファッションやメイク、ダイエットとコイバナだろうが、ハンナはそのうちコイバナに全振りのタイプらしい。

「どんな人がタイプなの?」

「うーん、まずヒーローにならない人 」
「リツ、ここヒーローアカデミーよ」
「だから大事なんだ。 もし彼氏がヒーローになったら事件が起こる度にハラハラするんだよ?
大怪我したり、最悪死ぬかもしれない。
だからダメ」

リツはテレビを祈るように見つめる母の姿を見て育った。
父が怪我をした時などは涙を浮かべる時もあった。そんな思いはしたくないと幼い頃からずっと思っていた。

「まあ、そう言われれば……そうね。長生きして欲しいものね」
「あとは、剃りこみ入れない人」
「えっ?」
「パパがね、ちょっと特徴的なヘアスタイルでさ。あーゆうのはホント、受け付けない」
家で会うよりテレビで見る方が多いリツの父は、前職のヘアスタイルを未だ貫き続けている。

「そ、そう……」

「あとはそうだなー、私より弱い男は論外」
「それなら対人格闘の授業があるし、いい人見つけられそうね」
「うん。 」

これが一番の難関であったりするのだが、ハンナはリツの事をまだ良く知らないので、この点に関しては興味を示さなかった。

「あとは? 背が高い人がいい、とかハンサムな人がいいとかそういうのはないの?」
「んー……見た目はものすごい難がなければいいかな。目が4つあるとか、ピアスだらけとか。変なヒゲはやしていたり」

変なヒゲ、とリツは父の友人を思い浮かべた。彼は既に故人だがよく写真や映像を見せられ、更にはこの学校にブロンズ像まである。

「うーん、リツは別に理想が高いわけじゃないと思うけど」
「そう? まあでも、私なんかを好きになってくれる物好きがいるかがまず問題だよ。」

自慢じゃないが、可愛らしさやお淑やかさなどとは無縁である。
幼い頃より母の趣味で体術関係の塾をかけ持ちして育ったリツは女らしさは育たなかった。
アレ?とリツの母親が気づいた時には既に遅く、それからは髪を伸ばすよう言いつけられ律儀に守っているものの、結局うわべだけの「女」が形成されただけだった。

「大丈夫よ。 だってリツ可愛いもの。 ねえ、あなたの髪の毛どうしてるの?
真っ直ぐで綺麗。 お手入れ教えてよ!」

恋バナから美容の話にシフトした。
ハンナと同室で彼女の話を聞いていれば『女子力』が上がるかなと考え、以降リツはハンナの話を授業と思うことにした。



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