▼ 1 ハローイアン
ヒーローシステム発祥の地、シュテルンビルトには、優秀なヒーローを育成輩出する為の教育機関がある。
ヒーローアカデミーの入学資格はただ一つ。
ネクストであること。
たとえ、本人にヒーローを目指す気がなくても、
入学は許可されるのだ。
*
「私達はティモ・マッシーニ先生より晴れて入学の許可をいただきました。
本日より平和と正義を愛し、市民を守るヒーローを志す一員としてーー」
(バカバカしい)
しん、と静まり返った体育館のステージ上で新入生代表の言葉を読み上げながら、リツは既に嫌気がさしていた。
目の前の初老の校長はニコニコとリツの姿を見つめている。
ヒーローを目指す訳では無いのに、半ば強制的にリツはヒーローアカデミーに送りこまれた。
本来ならば日本の学校で日本の友達と進学先について悩みながら、遊びながら、
長期休暇のみ母親に連れられてシュテルンビルトに遊びに行く。
そんな生活をこれからも続けているはずだった。
「新入生代表リツ・ニノミヤ」
一礼して降壇する。
見渡せば知らない人ばかり。
ふと、視界の端に金色の光が見えた。
なんだろうとそちらを見れば、それは一人の少年の髪だった。
この場にいるからには同じ新入生だろう。明るいブロンドの猫背気味の少年。
この少年と、長い付き合いになることをまだリツは微塵も予想できていなかった。
十月、秋の色が濃くなってきた季節に入学式。
ニホンとは違う季節のイベントに違和感を感じつつ、リツは新生活の場を早く覚えようとキョロキョロとあちこちを見ながら歩く。
ぞろぞろと新入生が列を作りあてがわれた教室に戻る。
そんな教室では一人でも多くの友を作ろうと携帯電話片手に挨拶をして回る者が多い中、席を立たず一人ポツンと携帯をいじる男の子がいた。
色素の薄い金の髪。 猫背でなで肩の小柄な体。
式の最中に見つけたあの少年だ。
リツはクラスの大多数の者と連絡先を交換し、会話の内容の重要度が下がったところで、ごめんちょっと、と断り彼の元へと歩み寄った。
その携帯電話には桜と手裏剣の蒔絵のステッカーが貼られていて、懐かしさと共に彼に親近感を覚えた。
「ねえ、キミ名前は?」
机の横にしゃがみこみ、長い前髪のその奥を覗き込めば彼はびくりと肩を震わせて目を見開いた。
「ごっめーん、びっくりした? 」
「……」
無言。 何も返してくれない。
「ねーえー、名前は? 私はね、リツ。 ニノミヤ・リツ。 こっち式ならリツ・ニノミヤ かな。
リツって呼んで。 で、で、君の名前は?」
再度名前を尋ねる。
警戒と緊張が解けるようにもちろん笑顔で、だ。
「あ……イワン・カレリン、です」
ぼそ、と小さな声で抑揚乏しく返事が返ってきた。
「イアンね! 君の名前を呼んでもいいかな。 よろしくイアン!」
「……イワンです」
半ば無理やりアドレスと番号を交換し、こうして二人の友人関係が始まった。
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