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何か少しでも出来ることはないだろうか。
このままでは二人が、いや囚われているヒーロー全員が危ない。
一つ可能性を見つけては、すぐにその拙さから成功しないだろうと打ち消してゆく。
「……」
H-01には敵わない。下手に手を出せば確実に殺される。
なら、ロトワングならどうだろう。
ロボットではなく、「生身の人間」なら、どうにか出来るのではないだろうか。
「……」
足音をを立てないようそっと歩く。
応戦している二人は相変わらず劣勢で、どこかで突破口を見つけなければ押し切られてしまうのも時間の問題だった。
ロトワングを捕まえて、脅して止めさせる。
それがH-01の相手をする以外で私にできそうな唯一の事。
壁伝いに早足で移動する。
二人が負けるなんて考えたくもない。けれど現状はそう楽観視できるものではない。
そっと破壊された階段の手すりに手を伸ばす。
壊れているけれど、腕の力で登れなくもない、かもしれない。
手すりを握りぐっと力を込め体を浮かせる。
「!」
ーーしまった!
大きな音を立てて手すりが外れ落下した。
私も一緒に落ちて尻餅をつく。
「う……痛っ……」
「リツさん!!」
バーナビーの声。
顔を上げればH-01がエナジーブレードを出し迫ってきていた。
「!」
「リツチャン逃げろ!!」
ーーああ、スカイハイ、キースさん……
走馬灯のように、彼の笑顔が目の前に浮かんだ。
「死にたく、ない」
つぶやきとともに青い光が広がった。
*
「リツさん!!」
大きな音が響いた。H-01の意識がそちらへ向けられ、音の出どころを確認したところでH-01は方向転換した。
ターゲットがリツさんに移ったようだった。
「くそっ 待ちやがれっ!」
タイガーさんが走り手を伸ばすも間に合わない。
赤く光るエナジーブレードが振り抜かれる瞬間、
今までに見たことのないほどの強い青い光が空間いっぱいに広がった。
「!?」
マスク越しでも目が眩むほどの光。
光が収まり視力が戻ると、エナジーブレードを振り抜いたH-01が停止していた。
「リツ、さん……?」
H-01の足元でリツさんは倒れていた。
「リツさん!!」
名前を呼ぶが反応がない。
ギギ、と音を立てH-01がこちらを振り向いた。
赤く光るエナジーブレードに照らされ、リツさんの体が見えた。
「!」
赤い。
この赤は光のせいじゃない。
「そんな……」
金属製の階段を両断してしまうほどのブレード。
生身の人間がどうなるかなんて、わかりきったことだ。
握りしめた拳が震えた。
*
「リツ!! リツ!!」
『ウソでしょ、リツ……』
スピーカーから聞こえたブルーローズ君の声。
ディスプレイに映し出されたワイルド君とバーナビー君の戦う姿。
そして、リツの姿。
「ああ……嘘だ……リツ!!」
『落ち着けスカイハイ!!』
バイソン君の声。
ドクドクとまるで全身の血が煮えたぎっているように体中が熱い。
息を吸っても吸ってもまるで足りない。手が震える。
「……どうすればいいスカイハイ」
私ーーいや、ヒーロースカイハイならどうする。
「どうすれば」
また私はリツを失うのか。
今度は永遠にーー
「このままヒーローが全滅するよりは誰かが生き残った方が……!」
『アンタ、 裏切るつもり?』
『ウソでしょ?』
ブルーローズの映像が大きく映し出された。
「違う! 違う!」
違うんだ! そういうことじゃない!!
「誤解だ! おい! みんな!!」
『さあどうします皆さん』
さも楽しそうなロトワングの声。
「私の言葉でみんなが……」
誤解を、動揺を与えてしまった。
『ああ、タイムリミットまであとわずか。 逃げ回るのは限界のようですね。
元々あなた達はライバルなのですよ。
いつ裏切るかわからない』
『もうやめてよ!』
ブルーローズの悲痛な叫びがモニターのスピーカーから聞こえた。
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