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▼ 57


ーー馬鹿馬鹿しい。

ロトワングとマーベリックの演説は聞くに耐えない。

アンドロイドがネクストにとって代わってヒーローになるなんて。そんなものが成立するはずがない。

ヒーロー事業はその華やかさと同時にとても危険な仕事だ。一瞬の判断が命取りになることがある。
電脳の演算機能だけで刻々と変わりゆく現場の状況に対応できるとは思えない。

現場はシミュレーションだけでカバーできるほど単純ではないというのに。

「さあ、三人がかりで構いません。 データは今後の参考にさせていただきますから」
「H-01を倒さぬ限り、君たちは何も守ることは出来ない。 市民も、仲間も……君の娘もね」

こんな事は間違っている。
CEOに登りつめる程の男がなぜ気付かない。

「リツさんは下がっていてください」
「……ですよね」

バーナビー・ブルックスJr.の言葉に素直に頷く。どう考えても私が突っ込んでいってどうこうなる相手ではない。
圧倒的な暴力の前に私のネクスト能力は役に立たない。

「……行くぞ」
「ええ」

タイガーさんとバーナビー・ブルックスJr.はH-01を睨む。


私は邪魔にならないように壁際へと退散する。

が、タイガーさんはネクスト能力を発動させようとして不発に終わった。

「……」
これって、もしかしなくてもかなり危険な状況なのではなかろうか。

嫌な汗がじとりと滲んだ。












二人ともよく戦っているほうだと思う。
シュテルンビルトのヒーローは、物語のヒーローのように化物や悪者退治をするヒーローではない。

犯罪者を確保し、危険にさらされた市民を救助するのが彼らシュテルンビルトのヒーローの仕事。

戦闘に特化し、ネクスト能力の制限もないアンドロイド相手に戦い続けるのは二人にとってとても苦しい事だろう。
苦戦する二人を祈るような気持ちで見つめる。

ーーせめてタイガーさんの能力が使えるようになれば。

ケガとは違い、ネクスト能力の復活なんて私の能力ではできるはずがない。

どんなに訓練をしても、やっぱり私は無力だ。

ネクスト能力が回復しないまま戦っているが、見るからに劣勢だ。


H-01は腕からブレードを出し振り抜ぬいた。タイガーさんは逃げるが、階段が切断された。その切れ味にぞっとする。

階段を切ってしまうなんて、もしタイガーさんに当たっていたらヒーロースーツごと真っ二つに……
そこまで考えて頭を振った。彼らを信じなくてどうするんだ。

「っだ!! こんなんじゃ能力出す前にやられちまう!」

どうしたら。どこかに活路を見いだせないものか。

ーーああもう設計図が欲しい!!

あのH-01の素材と構造がわかればバラバラのサラサラにしてやるのに。

関節機構は油圧作動だとして、あれだけ早く動くためには軽量化が必須だ。ただの金属ではなく炭素繊維の可能性が高い。
金属より軽く、重さはその十分の一程度。
装甲の内部はマイクロラティスでもおかしくない。発泡スチロールより軽いが衝撃への耐久性は金属随一だ。
けれども水に浮くほど軽い素材もある。金属マグネシウム合金マトリックス複合体を炭化珪素中空粒子で強化したものなんかは真水、海水にも強い素材だ。ヒーローとして過酷な環境での作業を考えればそちらかもしれない。

けれどもまだまだ実用段階と言えるほどのものではない。どこまでロトワングが研究しているのか、今すぐ研究所を漁りに行きたい気分だ。

H-01はあれだけ激しく動いているが、熱を溜め込んでいる様子はない。排熱、冷却をどうしているのか、ますます設計図が欲しくなる。


「!」

ワイルドタイガーのボディが光った。
「能力が!」
「よっしゃあ! 行くぜェ!!」

ーータイガーさんの能力が復活した! タイガーさんとバーナビーさんがネクスト能力を発動させればこんなアンドロイドなんて!

「ハァアァアアア!!」

二人は同時に能力を発動させH-01に突っ込んでゆく。
バーナビー・ブルックスJr.の連続の蹴りに体制が崩れたH-01をワイルドタイガーが組み合うが、H-01の方がパワーがあるのか押し込まれてしまう。

「ぐ……なんつーパワーだっ……」

「そんな……うそ…ハンドレッドパワーが……」

バーナビー・ブルックスJr.の蹴りでタイガーさんはH-01から離れ上体を起こし体制を立て直そうとするがすぐにH-01の飛び蹴りに見舞われる。

声を上げそうになるが、口を抑えて悲鳴を飲み込む。

どうしたらいいの。
私がブルーローズのように氷結させることの出来るネクストなら、一瞬でもH-01の動きを鈍らせることができるかもしれないのに。

私がロックバイソンさんのように剛腕で、硬く頑丈なネクストならH-01を押さえ込むことが出来たかもしれない。

ドラゴンキッドなら、ファイアーエンブレムなら。
次々とヒーローの能力を使った一手を思い浮かべる中で、やはり自分だけが役に立たないんだとその現実に鼓動が早くなる。

息がうまく吸えない。手が震える。


ーースカイハイ……キースさんならどうしますか。

助けて欲しいと真っ先に願ったヒーローは、ここにはいない。


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