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▼ 10 素顔、そして宴の後に

「ああ! 探していましたよイワンくん!」

会場に戻ればほわりと暖気に包まれピリピリしていた頬が緩んでゆく。
まっさきに校長が駆け寄り、さあさあ、と案内されるままについていけばヘリペリデスファイナンスのCEOがいた。

「社長、彼がイワン・カレリンくんです。こちらは同じ学年のリツ・ニノミヤさん」
「ダンスお見事でしたよ。 楽しませてもらいました。まさか入れ替わっていたとは思いませんでした」
握手を求められ、イワンは驚きながらもそれに応えた。
「お二人共擬態のネクストなんですか?」
「僕はそうですが、彼女は……」
「私は子供になれるネクストです。先程のは他の方に協力してもらってあの姿になっていました」

「そうなんですか。同じ能力を持つバディヒーローも面白いかなと思ったのですが」

残念そうにヘリペリデスファイナンスのCEOは眉を下げた。
「すみません、片方はうちの会社に内定してるので」

男の声が割り込んできた。

振り返ればアンリと、入場の時にその隣で笑いをこらえていた男がいた。

その顔を見てイワンは気づく。
(この人、リツが擬態した人だ!)

「どうもご無沙汰してます。 ヘラクレスジャスティックのザック・フィールドです」

くすんだ金の髪に鳶色の目。
リツが擬態した相手ならば血縁者ということになる。

「はじめまして、アンリ・ダルモンよ。 ナゴミのデザイナーをしてるわ。このコ達のもアタシのデザイン。
イカしてるでしょ?」

パチンとウインクをして、アンリはイワンのベストの脇腹をなぞった。

「そうだったんですか。 素敵だと思っていました」

「このステキな彼がヒーローデビューするならウチとしては協力は惜しまないわン。
イワンくん、コ・レ、とって見せてよあげなさいよン」
コレ、とイワンの顔上半分を覆う仮面をつついた。

そっとイワンは留め具を外して顔から外す。
そこからあらわになった素顔を見て周囲の野次馬ごと水を打ったように静まり返った。

「……あの……?」

いつも長めに垂らし隠している前髪がない。
じっと皆イワンの、顔を見つめ何も言わないものだからなんだか気まずくなってイワンはまた仮面をつけようとした。
が、リツがその仮面を奪い、お祭りのお面のように頭に斜めにつけた。

「やっぱり素顔かっこいいよ、イワン」

ぐ、と親指を立ててリツは笑った。













あれからパーティーが終わるまでイワンはヘリペリデスファイナンスのCEOにつかまっていた。
イワンのニホン好きと、CEOの趣味がバッチリ一致したらしい。

リツといえば用意された軽食に舌鼓をうつも普段より少しきついドレスのために満足できるまでは食べられずふてくされながらグラスのジュース片手に壁際の椅子に座っていた。

エドワードはパートナーそっちのけでネクスト能力を披露している。
床にめり込み砂を操るエドワードにタイタンインダストリーの人は興味津々だった。

恋人以外がペアのものはもうばらけていて、ほかの企業の人間と話していたり、手の空いている相手にダンスを申し込んだりとパーティーを満喫しているようだった。

「リツさん、ひまなの?」

隣の椅子に座る男子がいた。

「まあそれなりに」
「俺と踊らない?」
「ちょっと疲れたから休みたいの」
「……そっか」
また今度ね、とありもしない謝辞を返しまたリツは視線をイワンの方へと戻す。

これで7人目だった。いい加減ウザったくなってきたが、流石に一人帰ってはイワンが気まずくなるだろうとなんとか耐えていた。







「お疲れ様イワン」
「リツもお疲れ様。 ほんとに、ほんとにありがとう」

パーティーが終わり、もう一度ヘリペリデスファイナンスの人に挨拶しに行ってお見送りをして終了。

イワンとリツは部屋で着替え、リツはバタリとベッドに倒れ込んだ。

「疲れたぁー」
「あ……リツ靴擦れしてるよ」
「あー、うん、新品のヒール履いて踊ればそりゃ仕方ないよ」

「絆創膏ある?」
「机の左一番上の引き出し」
倒れ込んだままリツは机を指さす。
「開けてもいいの?」
「好きにしてー」

イワンは引き出しを開けた。
箱の潰れかけた絆創膏を取り出しリツの足元に腰掛けた。
「貼ってくれるの?」
「うん。 じっとしてて」

そっと足を持ち上げぺたりと絆創膏を貼る。
「足冷えてる」
「冬だからね。 筋肉量上げないことにはどうにもならないかな」
「うわ……足の指も水膨れ出来てる」
「ヒールがあると前に滑るから仕方ないよ」
「女の人って大変なんだね」

そろりとイワンはリツの足の甲をなでた。

「それでも女はお洒落をやめないんだから見上げた根性だよねぇ……イワンの手あったかい」

クリスマスイブがもうすぐ終わる。

「ねぇリツ、冬休み中帰るの?」
「ん……明日衣装返して、コート取りに実家に帰る。一人じゃ持てないからついてきて」
「!」

クリスマスイブは強制的に一緒にいた。
出来ることなら明日も一緒にいることが出来たらな、と思っていたのだが。

「うん。 一緒に、行こう。」

願うならば、何の理由がなくても一緒にいることが出来る関係になりたいとイワンは思った。











花に嵐を喩えよう
25話に続きます


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