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▼ 14

あの日、スカイハイはいつものように夜のシュテルンビルトの上空をパトロールしていた。
特に事件もなく、そろそろ会社に戻ろうかというところで異変に気づいた。
夜の公園で、何故かそのあたり一帯の街灯が消えていた。
治安の維持のためにも街灯が消えたままなのはよろしく無いと思い、様子を見ようと公園に降りた。

「!」

地面に足がついた瞬間、どろり、と闇がまとわりついた。

白いヒーロースーツが、じわりじわりと黒い何かに塗り替えられてゆく。

周りを見渡せば、ベンチや石畳、時計の形に植えられた色彩豊かなはずの花も同様のどす黒い何かがまとわりついていた。

ーーネクストか。

闇に呑み込まれた木々の向こうで、白い何かが動いたのが見えた。

人だ。
この能力の主だろうかと声をかける。

「キミ、待ちたまえ!」

怯えた顔、白いワンピースを着た裸足の少女。

「来ないで!あぶないです!」

「大丈夫だ、そして大丈夫だ!私は見ての通りヒーローだ!」

ヒーロー、と小さくつぶやき首をかしげる。
真っ黒く染まってしまった手袋で触れるのは憚られ、手袋を脱いだ。
ゆっくりと近づき、彼女の手を取れば、ぱっと黒いものが消えた。
それとともに彼女の発光もおさまる。

「能力が暴走してしまったのかい?」

「能力?」

「目覚めたばかりなのかな。 キミ、家はどこだい?こんな時間に出歩いてはご両親が心配しているよ」

「わからないの……ここどこ? 私が住んでた所じゃない、みたい」


警察を嫌がる彼女を放っておくことは出来ず、良くないことだとはわかっていたが、家に招きジョンと会わせた。少しでも安らげるように。

少女と話をしてみてキースは驚いた。
オリエンタル系の人は若く見えるという、その謂れを身をもって知った。



「ネクストって何? シュテルンビルトなんて知らない……」

リツはひどく混乱していた。
何とかなだめてリツのネクスト能力は収まった。

リツのいう地名に心当たりはない。
リツのいた所にはネクストは存在しないという。

家にも帰れない、警察は嫌だ。取り乱すとまたどろりと黒いものが現れネクスト能力が暴走する。そんなリツを外に放り出すなんてキースには出来なかった。

リツが寝ている時は必ずジョンが寄り添う。ジョンに好かれているのだから、悪い人ではないのだろうとひとり納得し、
褒められたことではないがズルズルと同棲生活をしていた。











思えば、見ず知らずの女性を部屋に留め置くなんて、きっと自分はリツを一目見た時から特別な情を抱いていたのかもしれないな、とキースはぼんやりと考えた。

「ネクスト能力をうまく制御できない彼女を、私は自宅に招いた。訳アリのようで、彼女の家には帰れなくなってしまったらしい。
一人にするとたまにネクスト能力を抑えられなくなるようで、私は会社のヒーロー事業部に相談したんだ。」

ネクスト能力について診てもらい、制御できるよう訓練を受けさせた。

「まあ、そのおかげで彼女の能力は制御可能になってね。」

そして、そのリツの能力の有用性に注目したCEOがどうやってかリツに市民IDを与えた。リツをヒーローにするために。

リツは身体面も能力面でもヒーローになれるよう、かなり過酷な訓練を受けた。

晴れて司法局よりヒーローとして認可を受けたその日、キースはリツの想いを知った。

「そう、彼女がポセイドンラインで正式に働くことになった日に、彼女の想いを知ったんだ」

「んまーっ! そうだったの! じゃあ両思いだったのねェ!!」

ネイサンは両手を合わせて素敵、と笑顔だが残念ながらそんな素敵な結果にはならなかった。

キースはうつむき、沈んだ声でポツリとこぼした。
「彼女の想いは、きっと雛鳥が親鳥を慕うようなものさ」

「え?」

「私は彼女のことを好きになってしまった。愛してしまった。だからこそ、そのような想いに応えてはいけないと、拒絶した」

ネイサンは目を剥く。
「ハァアアア!?」

「それまで一緒に住んでいたのだけれど、彼女のこれからの事を考えて別々に住もうと彼女の部屋を二人で探したよ」

「ちょっ! 待ちなさいよ、その子歳いくつ?」

「今は19だ。もうすぐ20だと言っていた」

「あ、あんた、馬鹿ね」

別々に住むようになり、リツとは良き友で良き同僚、そしてコンビとしてスカイハイは接してきた。
リツもそれは同じであの日以来、その事については一切触れない。

「雛とか親とか、まあ幼い頃は身近にいる素敵なお兄さんへのあこがれを恋と混同することはよくあることだわ」

ネイサンはグラスを回す。

「でもね、彼女はもう大人。オンナはね、オトコより大人になるのが早いのよ」

「割り切ったつもりだったんだ。彼女がこれから本当の恋をして、幸せになればいいと」

バーナビーブルックスjr.とのCM映像がキースのまぶたの裏に焼き付いて離れない。
あのCMに思い知らされた。

(きっと私は、リツが誰かのものになるなんて、耐えられない)



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