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「あら、珍しいわねぇ」

「ええまあ」

二日続けて会社を休むわけにもいかず、どんよりとした気分を引きずりながらリツは出社した。
が、キースと一緒にいるのが辛くて死にものぐるいで仕事を終わらせ、
新しいヒーローグッズの広告用の撮影をし、ヒーロースーツのままトレーニングセンターへ逃げてきたのだ。
隣のデスクからずっと悲しげな視線を感じていては精神衛生上宜しくない。

ファイヤーエンブレムは尖ったネイルを唇に当て、ふうん、と漏らした。

「なによぉ、なんかあったわけぇ? 出動要請もないのにずいぶんと消耗してるわね」

「ちょっといろいろありまして」

「そのいろいろを教えなさいよっ!」

「いやそれはちょっと……」

今トレーニングセンターはファイヤーエンブレムとリツだけしかいない。ファイヤーエンブレムだけなら打ち明けてもいいだろうかとリツの心がぐらつく。

いやまずいな、とリツは思い直した。
万が一キースや虎徹の耳に入ると多角的にまずい。

「水臭いわねえ」

「ごく個人的な事でして」

「ふうん?」


軽くトレーニングをして、うまくキースと入れ違いになるように早めに帰った。













「ハァ……」

「なあに、スカイハイまでため息ついちゃって。辛気臭いったらありゃしない」

リツに避けられている。自業自得だ。
自業自得とはいえだいぶキツイ。

こんなに自分は女々しかっただろうか、とキースはまたため息をついた。

「女性に振られてしまってね」

「え!?」

あちこちから声が上がる。

虎徹だけは苦そうな顔をしていたが、皆驚き、興味があるのかわらわらとキースの元へと集まってきた。

「ちょっとなにそれ!好きな人いたの?!初耳なんだけど!」

恋の話になるといつも張り切るのは女子組だ。

「もう、私はダメだ……」

「だーかーらー!何がどうしたのよ!」

ブルーローズの目が輝いている。
人の不幸をそんなに楽しそうにワクワクしないで欲しい。

「嫌われてしまった……」

「洗いざらい白状しなさぁ〜い、スカイハァ〜イ」

ネイサンの目がいちばんキラキラと、いやギラギラと輝いている。

「さっきステルスリッターもあんたみたいにジメジメ腐ってたわよぉ?なんか関係あ・る・の?」

「えっ、スカイハイってもしかしてそっち……?」

「断じて違う!そして誤解だ!」

相手は合っているが性別が違う。

今日も家に行ってみようか。
でもまた避けられたら。拒絶されたら。

リツと関係がぎこちなくなってから何度もぐるぐると考えていたことだ。


(ーー怖い)

はじめに拒絶をしたのはキースだ。
今になってキースは思い知る。

(リツはこんなに恐ろしい、辛い思いをしていたのか)













ジョンの散歩をして、その後あてがあるわけでもなく出かけた。家で何もせずじっとしているとどんどん泥沼にはまってしまいそうだった。

「あーら、どうしたのこんなところで」

「ファイヤー君……」

ネイサンシーモアと出くわした。

「ふぅ〜ん? 続き、聞かせなさいよ」

ネイサンは唇に指を当て、妖艶に笑った。




ネイサンオススメのバーに入り、ソフトドリンクを注文する。

「どこから話せば良いのか……」

「最初っから洗いざらいよ!」

最初から。

キースは記憶をたぐる。

「彼女と出会ったのは半年前だ」

リツがステルスリッターのことだとわからないように、
その部分は心の中だけにとどめて当時の、あの夜のことを思い出した。






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