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「あああああもぉおおおおおー何回私のことを失恋させる気だよぉおおおおおおっ!」

「まあまあ、未成年に酒は勧めらんねーけど、レジェンズコーラでも飲めよ」

リツは撮影の後気持ちを落ち着かせようと、目に付いたバーにふらりと立ち寄った。

ヒーローを店のコンセプトにしているここは未成年でも断られることはない。

そしてバーで飲んでいた虎徹と偶然遭遇しこうして愚痴ってる。

愚痴の先はキースではなく、あくまで会社の同僚に振られた、ということにして。


「ありがとうございます。 もお明日会社行きたくない。 生きてるのがつらい。 うわーもう私ナメクジみたーい。 マルガリータの塩降ってください虎徹さん。 いっそ小さく消え去りたいです」

「なんでそんなん知ってんの」

「この際ブルドックのふちについてる塩でもいいです」

「だからなんで未成年のリツちゃんがカクテル詳しいの。 つーかブルドックは塩ついてねェ方だから消え去るつもりねーだろ」

「ハア…………もう……ダメ……」

手の中でスマホのバイブレーションが作動している。

「電話、出なくていーの?」

「あわせる顔がありません」

今は22時半。
21時頃からずっと電話がなりっぱなしでその合間にメールが届く。 ちなみに全部キースからだ。



今どこ

話がしたい

家に帰ってないのかい?

中にいる?

鍵使って入るよ

どこにいるんだ

電話出て

メール返事してくれ

無事かい?



「フッフッフッ、私ってば愛されてるーう」

「目が死んでるぜ。 愛されてる子はそんな目しねーよ……」


リツは握りしめていたスマホをカバンに押し込む。

「……虎徹さんならどうします?」

「ん、何が?」
「好きな人に拒絶されてそれは愛を間違えてる勘違いしてる、お友達でいましょうねっていわれて、
やっと諦めて友人として振る舞えるようになってきた所で好きだと言われて。
それ愛を間違えてるって言った人間の言っていい言葉じゃないですよね。
完全に愛を間違えてますよね私のこと妹ですってぇーうふふっ」

「だっ……それは……なんか思った以上にドロドロしてんな……」

「ははっ……恋だの愛だの、今盛り上がったところで、きっと十年後にはすっかり冷めてるんですよ。時とともに薄れて、
わたしはこんなに禿げ上がるくらい悩んだ苦しみも、彼に対する甘酸っぱい気持ちも忘れて次の恋をするんです。」

「なっ……、十代の嬢ちゃんが悟るとこじゃねーぞソコは」

グズグズ鼻をすするリツに、バーテンダーがそっと箱ティッシュを置く。

(ありがとう、その優しさが嬉しいです)
バーテンダーにお礼を言って鼻をかむ。

「でもな、十年経っても、俺は嫁さんのこと愛してるぞ」

「え?」

「もうすぐ6年か…… 病気で先に逝っちまって。結婚してからもう十年ちょいだ。
俺は変わらず愛してるけどな」

薄々一緒にいないことは気づいていた。
(亡くなっていたんだ……。)

「スッパリ諦めちまうのもそれはそれでいい。 だけどよ、もしかしたらソイツがリツちゃんの運命の相手かもしれない。 最初は、そうだな、まだ運命が決まってなかったのかもな」

「……」

「俺はリツちゃんの運命の相手を見極めることは出来ねェけどよ、 選択すんのはいつだって自分なんだ。
失敗を恐れてちゃあなんにも選択できないまんまだぞ」


カラン、と氷が軽い音を立てた。

(選択……)

逃げる、という選択をしてしまった。

心の中でまでヒーローではいられない。自分の心の弱さに心底嫌気がさす。

ーー否、強い人間などいないのかもしれない。


立ち向かえるか。
ほだされずに毅然としていられるか。

リツは何度も心の中で自問自答を繰り返した。



「……むーりー」

「えっ 俺いいこと言ったのに!!」












「っんとーに1日だけだからな!」

そういって虎徹はリツを家に招待した。

「はい、明日にはちゃんと帰ります」

「散らかっててわりーな。とりあえずコレ、風呂入ってこい」

コレ、と渡されたタオルと部屋着。

「あっち、風呂場だから」

「ありがとうございます」

何の解決になりもしないとわかっていてまた自分は逃げる選択をした。気がゆるめばじわりと視界か滲む。
キースが自分の部屋にいるかもしれない。そう考えたら、自分の部屋になんて帰れない。


熱いシャワーを浴び、ゴシゴシと顔を洗う。
さんざん泣いたのでまぶたは腫れぼったいし、鼻は赤い。



嗅ぎなれない石鹸の香りに包まれて、風呂を出た。

「お先しましたー」

「おう」

虎徹さんから借りた部屋着は大きくて、お腹を抑えていないとズボンがずり落ちてしまう。

「だっ……髪拭けてねえぞ」

「あ、すみま」
せん、とタオルで頭を包もうとしたその時

すとんっとズボンが落ちてしまった。

「だっ!?」

「あ」

手を離してしまった。
急いでズボンを上げる。

Tシャツが大きいので隠すべきところが見えなかったのが幸いだ。

「す、すみません、お見苦しいものを……」

「あ……俺こそワリ……やっぱでかかったか……」

とりあえず応急処置で、余ったウエスト部分を輪ゴムで縛った。
横っ腹から妙なシルエットが浮き出ている。


髪もドライヤーを借りて乾かした。

静かになったケータイを見ると、電源が切れていた。


「あ、ほら、充電器。」

促されるままつなぐと自動的に電源が入った。

「う、うわぁ……」

着信126件
未読メール37件

待受画面に表示された件数が見えたのか、虎徹さんまで驚いている。
「うおっ……すっげえ……」

一度電源が切れてつながらなくなり諦めたのだろう。
もう電話はかかってこなかった。

「なあ、リツちゃん、帰った方が良くねえか?」

「……」

「心配してこんだけ連絡してきてるんだし、帰った方が」

「無理です。 確実に私の部屋にいます。 今顔合わせたら私、ダメになってしまいます」

「……じゃあせめて友達のところに泊まるとかメール入れた方が」

無理だ。こちらの世界に来て、ヒーローになって。
そんなリツにふつうの友達なんて一人もいない。それはキースがよく知っている。



ホテルに泊まります
心配かけてごめん




それだけ打って送信、すぐに電源を落とした。


虎徹は微妙な顔をしていたが、ぽんとリツの頭をたたき、更にグシャグシャとかき回した。

「じゃーもう寝ちまえ。ベッドのシーツ替えといたから。」

「虎徹さんは?」

「俺は風呂入ってこっちで寝る」

こっち……ソファで寝るのだろうか。

「あの、私がこっちで寝ます」

「おじょーちゃんに無理させられるわけないだろ?おじさんのいうこと聞きなさい」


いやいや私が、とお決まりのやり取りをしばらくしてから、ベッドじゃないとスカイハイに連絡するぞと脅されてベッドを使わせてもらうことになった。



(ああ、着信履歴の名前見られたんだった。

全部お見通しなのか。

このおじさんには敵わないな……)



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