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「リツ」

「あのー、今はステルスリッターです」

キースはトランスポーターで現場に来ていたため、二人でトランスポーターの中で休憩を取る。

のどが渇いていたので人目を気にせずヘルメットを外して水分補給できるのはありがたかった。

「今は誰もいないよ。リツ」

「ちょっ、まっ……」

シートに腰掛けているリツの肩を、ヘルメットを外したキースが抱き寄せた。
リツの目の前にスカイハイの胸のロゴが広がった。

「あんなCM……だめだ。」

絞り出すような苦しそうな声。
ダメだはこちらのセリフだと、リツは唇をかんだ。

そんな言葉は、態度は勘違いしそうになる。

「……キース」

「リツ、もう一度私と住もう」

「え?」

「私が、悪かった。拒絶して、悪かった。すまない、リツ……」

息が苦しい。
ーー否、胸が苦しい。

心を鎮めようと深呼吸を試みるが、ダメだ、浅い呼吸を繰り返すだけでちっとも肺腑いっぱいに酸素が得られない。


(キースのことが好き)
ああ、諦めたはずなのに、蓋をして心の奥底にしまい込んだはずの気持ちが溢れてくる。

(……あの夜、私は眠っているキースにーー)

リツはそっとキースの胸を押し体を離した。

「ダメだよキース。私が勘違いしたように、キースも勘違いしてる。そうでしょ?」


ーーあなたが言ったのだ。

この愛情は、初めて見たものを親だと慕うような、雛鳥のような愛だと。

この世界で初めてふれた人間に対する刷り込みの愛なのだと。

リツはキースの青い目を見つめて、自分に言い聞かせるようにゆっくりと話し出す。


「ね、キースはジョンのことを愛しいと思うでしょう……
私のこともそれと同じ。 公園で拾った私のことを、犬か猫のように可愛がりたい、自分に懐けばいいと思っているだけよ。
大丈夫、バーナビーブルックスJr.になついているわけじゃない」

「違う!違うんだリツ!私はっ!リツのことが!」

「っキース!!」

それ以上は聞きたくなかった。
覚悟を無意味なものにしたくなかった。

「リツ……」

(ねえ、どうしてそんなに辛そうな顔をするの。

どうしてそんなに泣きそうな顔をするの。)

「リツ……」


キースはリツを見つめたまま手をとった。手袋を脱ぎ、脱がせ、直接キースの熱が伝わる。

「ねぇキース、私たちはポセイドンラインのヒーローでコンビなの。今はもう住む部屋も別だし、ね」



忘れてしまおうとしていた思い出が鮮明に蘇る。
あの日、眠っているキースにリツはキスをした。
キースは起きてしまって、想いを告げたリツを拒絶した。

精一杯の笑顔を作って告げる。

「これからも相棒としてよろしくね、スカイハイ!」

ぎゅっと手をにぎり握手をする。



(これは私の覚悟。

だからお願い、そんな顔をしないで。



私の覚悟を、崩さないで。)

「リツ……」

キースは表情を歪めたが、リツは手を解き立ち上がる。

「さ、休憩おしまい。 次はスカイハイも撮影なんでしょ、戻ろ!」


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