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「シャンプーのCM?」

「そうよ、新人同士でCM。」

初めてのCM撮影。
詳しい事は現場で、と会社で言われヒーロースーツを着込んで現場に連れて来られた。

控え室に入ればそこには既にバーナビーブルックスJr.もいた。

彼もいるなんて聞いてない。ついでに言えばシャンプーのCMというのも初耳だ。

「でも僕、顔出し身体出し私服もNGなんですが……」

「問題ないわ。むしろそのスーツのままがいいわね。 バーナビーは貴族、ステルスリッターはそのまま騎士。後からスカイハイとドラゴンキッドのバージョンも後から取るらしいわよ」

「はあ……」

「ヒーローTVもCM撮影現場のメイキング映像取るから! 特番で使うの。 しっかり頼むわよ!」

そう言い残すとアニエスさんはセットを見てくると足早に立ち去ってしまった。

「……貴族、似合いそうですね」

テーブルに置かれたバーナビー・ブルックスJr.の衣装を見る。

「史実に忠実じゃなくて安心しました。カボチャのようなパンツにタイツは嫌ですからね」

「!」

その姿を想像して思わず吹き出してしまった。

「あ、すみません、つい」

バーナビーブルックスJr.は顔をしかめるとため息をついた。

「想像しましたね、今」

「ーーはい、すみません」


くつくつと笑いが止まらない。


シャンプーのCM
どうやって撮るのだろうか。












「そう、ステルスリッターさんは後ろからバーナビーさんの髪を手で……そう、そしてセリフ!」

「……………いい香りだ……」

「そーう!で、そこでバーナビーさんは振り返って上目遣い!ちょっと驚いて!嬉しいけど切ない!みたいな感じ!そう!そうそうそう!」







「」


言葉が出ない。



台本はない。
その場で監督の指示を受ける。

が、
(これってもしかしなくても……)

「うん、いいね、禁断の恋って感じで!」

「 」
何もコメントできない。

バーナビーブルックスJr.はすました顔をしている。動じないその精神力や天晴れ。

リツはヘルメットがあって良かったと心から思った。

「じゃあ本番いこうか!」

本当に撮るのか。
そしてそれは本当に世に出て大丈夫なのか。

よくこのシナリオでアポロンメディアとポセイドンラインが、許可だしたな、と悶々と考えつつステルスリッターは撮影のセットに足を踏み入れた。




ステルスリッターは主であるバーナビーブルックスJr.を探す。

バーナビーブルックスJr.は木の幹に背をあずけ座り込み本を読んでいた。

「ここにおられましたか」

バーナビーブルックスJr.の長い指がページをめくる。

「探しました」

サクサクと青い芝生を踏み背後から近づく。

「ここにいれば、あなたが探しに来てくれると思って」

「帰りますよ」

「そう意地悪しないでください。せっかく……いえ、あと少しだけ」

風が吹く。

バーナビーブルックスJr.の髪がなぶられ、ステルスリッターのマントがひるがえる。

バーナビーブルックスJr.の斜め後ろにステルスリッターは片膝をつき、金の髪に絡んだ木の葉をとる。

そのまま手櫛でバーナビーの乱れた髪をととのえる。

ふとステルスリッターはバーナビーの髪を一房手に取り少しだけ顔を寄せる。

髪が長めとはいえ男性であるバーナビーの耳元で囁く形になってしまう。

「……いい香りだ」

変声器を通しているとはいえ、なるべく心地よく耳に響くように低く優しい声で囁く。

バーナビーブルックスJr.ははじかれたように振り返り、
上目遣いで二人の目が合った。
はっと目を見開いて少しだけ頬が緩むがすぐに切なそうな顔をする。

何かをバーナビーブルックスJr.が言おうとして口を開きかけ、



「はーいカァーット!!」


(恥ずかしすぎて死ねるわ。)












「演技お上手なんですね……」

「あ、ありがとうございます」

恥ずかしくてまともに彼の顔を見れない。
ヘルメットがあって本当に良かった。

「リッターさんも雰囲気出てましたよ。素敵な声でした」

芸能人のような完璧なスマイルでバーナビー・ブルックスJr.はドリンクを飲む。

映像のチェック、編集をしている間出演者二人は休憩だ。

「女性のファンが増えそうですね。僕でもゾクッとしましたよ、リッターさんのあの声は」

(変声器のおかげですけどね。)
バーナビーブルックスJr.は笑顔ですごいことを言ってくれる。

「それにしてもすごい演出ですね。こういうのって男女がやるべきでは……」

アポロンメディアもポセイドンラインもよくOK出したな、とリツは思った。ジェンダーレスとかいうものだろうか。少々違う気がする。

「僕たち二人の演技から何を見出すのかはまあ、僕たちが気にしても仕方ないでしょう。
仕事は仕事ですから。
リッターさんもいかがですか?」

バーナビーブルックスJr.は長テーブルからペットボトルを持ち上げるが、今のステルスリッターはヘルメットを外すことができない。
ライトがガンガン当たって暑いし、緊張で喉がカラカラだが、我慢するしかない。

「コレ、外せないので」

指でトントンと顎のあたりをたたく。
キースが到着したらまた風送ってもらおうかと、リツはライトで熱を持ったスーツを置かれていたパンフレットで扇ぐ。

「どこかリッターさんお一人になれるところがあればいいんですけどね」

「大丈夫ですよ、お気遣いありがとうございます」


そしていろんな角度からとられた映像が簡単に構成され、
完成ではないが形になってきたCMを二人は見せてもらった。


「す、すごいですね……」

詳細な感想は自粛させていただく。






「やあリッター君にバーナビー君!待たせたね!」

程なくしてキースも撮影現場に到着した。

キースは撮影セットの片隅のモニターでチェックされているステルスリッターとバーナビーの映像を見て石化してしまい、撮影は予定時間を大幅にオーバしてしまうのだった。






オマケ

「リツ……」

「しっ!今はステルスリッターです!」

「きみは、バーナビーのことが好きなのかい?」

「あれは演技です。仕事です。」

「二人とも想いあっているようで……グスッ」

「えっーーーキ、スカイハイ?ちょっと、スカイハイ!?」

「リッター君への想いなら私も負けない!そして私の方が勝つ!」

「oh……」




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