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「だっ!!まじで!?」

鏑木虎徹は目をむく。白人のキースと日本人のリツでは似ても似つかないのだから当たり前だろう。

当たり障りのない笑みを顔に貼り付けるが、頭からつま先までじっくりと見られリツの手がしっとりとしてくる。

ーー大丈夫、今はただの一般人。バレるはずが無い。



「冗談だ!」

「んだよー、ビビったじゃねーか」

「虎徹君は今日は?」

「楓に何か買って送りたくてな。あ、時間あるならーーリツちゃんだっけ? 一緒に選んでくれよ」

「え、えっと」

「娘なんだけどさ、女の子の好きなものっていまいちわからねーし……」

「よし、じゃあ一緒に虎徹君のプレゼント選びをしようじゃないか!」














考えてみれば、ヒーロースーツの体格と全然違うし、顔も声も違うのだから焦る必要はなく、一人で変な汗を滲ませる必要もなかったのだ。

「この前はヌイグルミ完全アウトだったし、髪飾りは母ちゃんが使ってるしで……なかなか楓が喜んでくれなくて」

「お、お父さんも大変なんですね。ところで楓ちゃんは何歳なんですか?」

「もうすぐ10歳だな。リツちゃんは何歳なの?ポセイドンラインの社員って事は」

「19歳ですよ。」

「若!おっさんに付き合わせてゴメンなー」

「いえ、特に予定もないので」

ショーウィンドウを三人でぷらぷらと見て回る。
私が子供の頃、なにが嬉しかっただろう。

「10歳の少女への贈り物……アクセサリーなんてどうだい?」

「は、早すぎねえか?」

「早すぎることないですよ、女の子は綺麗なもの好きですし、大人が思う以上に女の子はオトナなんですよ」

「なるほど、じゃあ……指輪とかか?」

「それは親からもらうより将来の彼氏から貰うほうが嬉しいと思いますよ」

「か、彼氏!? 楓に彼氏……カレシ……」

鏑木T虎徹は典型的な「娘を愛する父親」だった。

「化粧品とかもいいと思いますよ」

「化粧も早くねえか……?」

「んー、マニキュアとかなら全然早くないですよ。私も小学生の頃休みの日にしてましたし。ビューラーとクリアマスカラとか。あ、ブレスレットとか……学校でも靴下に隠れるミサンガやアンクレットとか……あとはーー」


「おじさん、女の子わかんない……」

「あとボディクリームとかはーーあ、香りの好みがわからないとダメですね……鏑木さん?」

虎徹は頭を抱えてしまった。

「リツはメイクしないのかい?」

キースが不思議そうに私を見ていた。
虎徹に聞こえないよう小声で答える。
「手袋が万が一脱げた時を考えればネイルなんて出来ないよ。化粧も……こっち来てからは買ってないから」

「わ、私としたことが配慮にかけていた!すまない!リツそして申し訳ない!」

「あ、ちがうのそういう意味じゃなくて!それに今はお給料貰ってるから自分で買えるし」

もともとあまり化粧をしない質だったし、化粧が必要な仕事ではないのでついサボっていた。

キースの隣をこうして歩くのなら化粧をした方が良いのかもしれない。

楓ちゃんのプレゼントを選んだら、自分の化粧品でも買おうかと思案する。

ショーウィンドウに映ったぱっとしない地味な顔を見たくなくてリツは目をそらした。











「それじゃあ、また明日」

父親から娘へのプレゼント選びを終え、その後自分の化粧品も選び、買ってくれようとするキースをなんとか引きはがしてお買い物終了。
キースに送ってもらい家に帰った。

出動もないまま今日は平和に終わりそうだ。

遅くなってしまったのでジョンの散歩はキースひとりで行くからと言われてしまった。

(遅くなってもいいのにな)

また明日、とドアを閉めて買い物の山を見る。


(妹、か)

冗談だと分かっていても、キースのその一言に普段キースがリツをどのように見ているかが良くわかった。

仕方ないと思っていても、現実を突きつけられると心にズッキリダメージがくる。

「いやいやいや。キースは恩人、コンビ!」


ぶんぶんと首を振り邪念を振り払う。



おそらくキースはリツのことを妹というよりは拾った犬か猫のように思っているだろう。
でなければ「あのような」事があって今は別々の所に住んでいるが、こうしてあれこれ世話を焼いたりしないはずだ。


ーーもう、失敗はしたくない。



「…………」


(化粧してみれば、ちゃんと女として見てもらえるかな)

髪ももっと伸ばしてみようかと毛先をつまむ。


買った化粧品の袋を見つめる。

久しぶりだし、お化粧の練習しようかと、一つ一つ丁寧に開封して、顔に塗りつけた。










『ボンジュー・ヒーロー』


タイミングが悪い。
化粧が完成した頃、PDAから呼出音がなり、お決まりのセリフが聞こえてきた。

仕方ないのでマフラーで鼻まで覆い、帽子をかぶってトランスポーターに駆け込んだ。







オマケ

上空にて

「えっ!メイクしたまま来たのかい!?」

「しっ!声おっきい!」

「見せてくれないかい?」

「既に汗だくだから無理。絶対崩れてる……」

「それでも私は気にしないぞ!」

「私が気にするからだめ!」



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