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「リツ、買い物に行かないか」
ドアベルの音に起こされ、ドアを開ければキースがいた。
休日、カーテンを閉め切って自堕落に寝てすごそうと思っていたリツは寝ぼけまなこで迎え入れると、買い物に行こう、ととても爽やかに誘われた。
ーー眩しい。
正統派アメリカンなイケメンの笑顔がまぶしすぎる。
リツは思わず目を細めた。
「準備、時間かかるけどいい?」
キースにお茶を入れて急いでシャワーを浴びる。
寝癖つきまくりの頭を濡らし、撫で付ける。
買い物行くなら電話くれればいいのに。
最近いきなり来ることが多くなった気がする。
一緒に住んでいた頃の名残で、キースにはここの合鍵を渡してある。
が、合鍵を使うことなく、彼は呼び鈴を押しリツが開けるのを待つのだ。
あまり彼を待たせるのも悪いので急いで上がる。
「おや、おかえり」
「ごめん、すぐに仕度するから」
「全然拭けてないじゃないか」
リツの手からタオルを奪い、丁寧に髪の水分をぬぐってくれた。
「あ、ありがとキース」
キースはにこりと笑うと、リツを鏡の前に連れていきそのまま櫛でとかし始めた。
「ちょっと、子供じゃないんだからっ」
「リツの髪は綺麗だね。もっと伸ばせばいいのに」
「キースは長いほうが好き?」
「いや、私は邪魔なので伸ばさないが……」
なんとも的外れな応えが返ってくる。
「うーん、ブルーローズみたいに長いのが似合えばいいんだけど」
鎖骨くらいまでの黒髪。
これでも少し伸びたほうなのだ。
キースに拾われた時はもっと長かったが、ヒーローデビューするにあたりバッサリと切った。
「似合うさ。と言ってもヘルメットをかぶってしまえば見えないがね!」
「……」
悪気はないのだろうがこうも笑顔で言い切られるとなんとも返し難い。
苦笑いで濁し、着替えをするため洋服を選び再びバスルームに戻った。
*
晴天
雲一つない青い空がハイウェイとビルの隙間からのぞく。
シルバーステージの複合商業施設は家族連れなどで賑わっていた。
「買い物って何買うの?」
「ラグをね。最近ジョンが絵の具で汚してしまって……クリーニングしたんだが、ダメでね」
「そっか。ジョンは元気?」
「元気だとも!買い物が終わったら散歩に連れていくけれど、リツも一緒にどうだい?」
「いく!久しぶりにジョンに会いたい。忘れられてないかな」
「ジョンは賢いからね、ちゃんとわかっているさ」
一緒に住んでいた頃はよく一緒に散歩に出かけた。よくしつけられていてきっちりと隣を歩くのに、なにかに興味を持つとグイグイと引っ張られてしまい、よく意図しないところに連れていかれたりもした。
はじめてキースの家にお邪魔した日はぴったりと寄り添い一緒に寝てくれた。犬を飼ったことはなかったので、はじめのうちは大きなジョンがくっついていると緊張したものだ。
ラグは暗めのグリーンかブラウンかを迷い、ブラウンの方を買って配送を頼んだ。
そういえば一人暮らしを始める時も自分よりも家具類を吟味していたな、と思い出す。
「リツ、これなんかどうだい?」
「ん……?」
「こういうの、似合うんじゃないか?」
視線の先には可愛らしいワンピース。
ーーいやいや。こういう服が似合うのはブルーローズとかであって、自分には無理がある、
と笑顔が引き攣らないよう気をつけながら曖昧な返事を返した。
「トランスポーターに入る時を考慮して全然女の子らしい格好していないだろう?会社から禁止されているわけでもないし、こういう時くらいいいじゃないか」
何着か服を持ち、試着室へ押し込められた。
すこし丈の短いワンピース。
着慣れない形の服におそるおそる袖を通す。
「ど、どう?」
試着室のカーテンをあけてキースを呼ぶ。
「よく似合っている! 似合っているぞよく!」
「そ、そうかな? じゃあ着替えるね」
「ちょっと待ちたまえ! コレも着てみてくれ、あとコレもだ!」
更に何着か追加され、着替えるはめになった。
*
「こ、こんなにいいの?」
結局リツが試着した全ての服や靴をキースは購入した。
そのうちの一着に着替えたので、慣れない格好が少し恥ずかしく感じ、リツの頬は少し赤い。
「気にしてはいけない。これくらいプレゼントさせてほしい」
「あ、ありがとう」
ニッコリと笑うキースがまぶしい。
ーーかっこいいな。
頬に熱が集まる。
なんとなくそんな顔を見られたくなくてうつむいた。
「あっれ?」
覚えのある声に顔をあげると、そこにはアイパッチをつけていない鏑木虎徹の姿があった。
ーーまずい、今の私は……
「やあ虎徹君!」
ちらりと横を見れば、キースはいつも通り肘を直角に曲げ、爽やかに挨拶をしていた。
「リツ!」
名前を呼ばれ慌てて背筋を伸ばす。
「この人は仕事でお世話になっているひ人でね、
虎徹くん、彼女は私と同じポセイドンラインの社員で」
そういう紹介の仕方ならば問題は無い。ほっとして挨拶をしようと微笑んだリツの顔が次の瞬間凍りついた。
「私の妹だ!」
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