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「お……?リツ?」

人目を忍びながらジャスティスタワーまでたどり着けばそこはほとんど無人だった。
「タイガーさん……バーナビーさんも……誤解が解けたようで安心しました」
地下駐車場で二人の姿を見つけた。
タイガーさんは元のワイルドタイガーのスーツを着ていて、その隣のバーナビー・ブルックスJr.の様子を見るかぎり、タイガーさんの冤罪は晴れたようだ。
「リツちゃん、あんがとな! どーにかなったわ!」
「リツさん、ありがとうございました。虎徹さんがあっさり捕まっていたらきっと今頃僕は……」
「お役に立てて良かったです。ところで……ほかのヒーローが捕まっているというのは本当ですか?」

ジャスティスタワーに入ってから、耳元のイヤホンからは雑音しか聞こえなくなってしまった。
「っだ!!そうだよ楓が!!」
「虎徹さんの娘さんとほかのヒーローがマーベリックに攫われました。アニエスさんはまだマーベリックの洗脳が解けていません」

バーナビー・ブルックスJr.の言葉に頭が痛くなる。人質が多すぎるし、アニエスさんの記憶が操作されたままというのは非常に恐ろしい。

「ところで、リツさんは今までどこにいたんです。ずっと行方不明……というか」
「死亡説が濃厚だったな。オレも助けられるまで信じらんなかったわ」

話しながらエレベーターに乗り込めば、観光案内のアナウンスが流れた。
「……ええっと、ウロボロスに襲われて、さらわれまして。それで逃げて身を隠して今に至ります」
「逃げることが出来たのなら保護を求めれば良かったのでは」
「それもちょっと考えたんですけどね。 でも世論が……ほら、なんだか私つるし上げられそうな勢いだったもので……」

しばらくは怖くてテレビを見れなかった。
自分のネクスト能力の分析だとか、その能力で出来る恐ろしいことなど、CGを用いたシミュレーションなどなど。
すっかり世間の嫌われ者だった。

「あー、バッシングすごかったもんなぁ。災難だったな、リツちゃん」
曖昧に笑って返す。
エレベーターはぐんぐんと上昇を続ける。
「そういや、あの後スカイハイには話せたか?」
「へ?」
「スカイハイえらい心配してたぞ。リツちゃんが消えてしばらくは顔面蒼白、ミスしまくり、やばかった」
「そうですね。成績不振でCEOに呼び出されたとか」
「ええっ!?」
そんなことになっていたなんて知らなかった。
「こっそり連絡してやりゃーいいのに。ま、これ終わったらちゃんと話し合えよ」
「う……」
話し合うも何も、動揺を誘うためにゲリラ告白してしまったんですけれども。
捕まりたくはないのでそのまま逃げたけど。
「あは……そうだ!バーナビーさん、今更ですけどキングオブヒーローおめでとうございます!」
「え、ありがとうございます」
笑って誤魔化されてくださいお願いします。

『まもなく展望台でございます』
アナウンスに遅れて階数表示がRになる。
が、止まる気配はなくそのまま上昇を続ける。
「どこ連れてく気だ」
タイガーさんがつぶやいた。
本来ならばこの先は立ち入ることが出来ないエリアだ。

すぐにエレベーターは止まり、扉が開くと同時にタイガーさんは駆け出した。
「楓! どこだ! 楓!!」
「虎徹さん落ち着いて」
「落ち着いてなんていられるわけねぇだろ!! 俺のせいで楓は……!!」
「え、あれって!」
あの、ロボットがいた。
タイガーさんたちのあとに付いていこうとして一歩踏み出した時、またくらりと眩暈がした。
どこで見られているかわからない。目頭を抑えたくなる気持ちを抑え、ぐっと顔を上げて前を見据えた。

「おい! 楓をどこにやった!」
「気をつけてください、相手はどんなネクスト能力か」

ん?
もしかして、あれがロボットだと気づいてないのだろうか。

「黙ってねぇで!答えろよ!!」

タイガーさんは黒いワイルドタイガーの頭に手を伸ばした。
そのままガシャリと顔のシールドを上げた。

「!」

ヘルメットの中には、骸骨のようなロボットの顔があった。

「驚きましたか」

鼻の赤い、小柄な男が現れた。
男は誇らしげに笑うと、バーナビー・ブルックスJr.に視線を向けた。
「お久しぶりです、バーナビー君」

どうやら、バーナビー・ブルックスJr.と関係のある人物のようだ。
冷静で、余裕で、いつもメディアに向けている笑みを浮かべるバーナビー・ブルックスJr.の姿はなかった。よほどこの男と因縁があるらしい。

「現にほかのヒーローたちが束になっても傷一つつけることが出来なかったのですから」
「!」

他のヒーローが束になっても?

その言葉の示す意味に、胃の辺りが冷たくなった。


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