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「大丈夫ですかスカイハイ」

本日二度目の出動の帰路、のっぺりとした闇のかたまりのような黒馬にまたがりスカイハイの横につく。

「すまない、そして申し訳ないリッター君。先に帰っていてくれ」

ヘルメットのせいでスカイハイの表情はわからないが、それでも彼のヘルメットの下が笑顔ではないことは想像に難くない。

会社から家に帰る時にでももう一度聞いてみようかと考え、リツは早くスーツを脱ぎたい一心でスピードをあげた。ーーその時。

「うわっ!!」

急に背中に衝撃を感じた。
ステルスリッターのバランスがくずれ、集中力が途切れ黒馬がとろりと夜闇にとけた。


落下


リツはなんとか黒馬をもう一度作り出そうと能力を発動させるが、影が薄く闇との境が曖昧な夜は地表から離れたところでいちから黒馬を作るのは難しかった。

(ーー叩きつけられる!)

リツが目をギュッと閉じたその時、また衝撃が来て、落下が止まった。

「大丈夫ですか?」

目をおそるおそる開けると、目の前には赤いヒーロースーツがあった。

「ば、バーナビーブルックスJr.」

ワイルドタイガーに続きお姫様抱っこされるヒーローになってしまった。
ヒーローTVの中継は終わっているのでセーフだと思いたい。

「毎回思うんですが、なぜ僕だけフルネームなんですか」

不服そうに細められたその瞳と
ヘルメットがあるのになぜか目があったような気がした。











「すまない!そして本当にすまない!リッター君!」

あの後キースが降りてきて平身低頭謝って、
バーナビーブルックスJr.に熱烈に感謝の言葉をつげた。

考え事をしていて余計な思いを振り払おうとしたところネクストが暴発したのだそうだ。

経験も豊富でポイントもトップを走るのキングオブヒーローの彼らしくない。

これ以上飛ぶのは危険だと判断し、近くの公園にトランスポーターを呼び帰ることにした。

「大丈夫? スカイハイ変だよ」

「大丈夫だ。大丈夫だとも」

ヒーロー二人が夜の公園でベンチに腰掛ける絵はなんとも間抜けだ。

「なんかあったんなら相談してよ」

まだヒーロースーツ姿だというのに、リッターの口調ではなく元の口調になってしまう。

「スカイハイ、いつもありがとうね」

「え?」

「わたし、ひとりでこの世界に放り出されてさ。すっごく怖かった。ネクストなんて知らなかったし、私の周りが黒く染まってくし」

あの夜、もしスカイハイが私を見つけてくれなかったら。

「スカイハイが居てくれるから私頑張れるの。いつもスカイハイが助けてくれる」

「私は……さっきは助けられなかった。それどころか」

「そういう意味じゃなくて!」

(この天然め)

「精神面とか、そっちの意味!
スカイハイは少しは頼ればいいと思う」

ヘルメットのせいで表情はわからない。
スカイハイは立ち上がるとステルスリッターのヘルメットにぽんと手をのせた。

トランスポーターのライトが遠くに見えた。

「ありがとうリツ」

スカイハイらしくない、小さな声がスピーカー越しに聞こえた。










リツはバーナビーが好きなのだろうか。
キースはトレーニングセンターでリツたちの会話が聞こえてきてからというもの、その内容をずっと考えていた。
リツとバーナビー・ブルックスJr.は年も近いし、メディアに引っ張りだこ、甘いマスクの彼は女子からの人気がかなりある。
そして何よりリツの言っていた金髪だ。

先程はぐるぐると余計なことを考えてかっこ悪いところを見せてしまうし、
危うくリツの命まで奪うところだった。

バーナビーはリツの素顔を見たら、女だと知ったら、どう思うのだろうか。
ふつふつと黒い感情が沸き上がる。

これではいけないとキースは自分に言い聞かせた。
自分は、キングオブヒーローなのだから。


リツが、ちゃんと本物の恋をすることは良いことだ。

なんども自分に言い聞かせる。
胸が軋むように痛かった。



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