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上空からヘリに追いかけられている。どうにかしなければずっとヒーローに追いかけられガス欠になってしまう。

「噂をすれば……スカイハイだぞ!!」
「へ?」

イヤホンからはスカイハイへと指示を飛ばすアニエスさんの声が聞こえた。

「まかせたまえ! 今日の私は最大風速計測不能!!」

懐かしい声とともに暴風に見舞われた。

バランスを崩しバイクから放りだされた。
が、タイガーさんに抱え込まれ大きな怪我は免れたのは奇跡に近い。
「タイガーさん!大丈夫ですか!」
「平気、だ」
肩をかばっている。怪我をそのままにしていては逃げきれない。
もう一度能力を発動させて治療する。効きはあまり良くないが、それでも前回よりは上手くいっている気がする。

「リツ……なのかい?」
スカイハイに名前を呼ばれ気分が上向きになりかけた。
いやいや落ち着け、そんな場合ではないと自分に言い聞かせる。

『スカイハイ、その子も拘束して』
イヤホンからアニエスさんの声。手厳しい指示にため息が漏れる。

「タイガーさん、あちらから逃げてください。私やルナティックに記憶があるように、ヒーロー関係者以外ならきっとあなたのことを覚えています。
頼れる人、いますよね」

あちら、と路地裏へと続く細い建物の隙間へ彼の体を押す。
ビルとビルの間には雨風を避けるため路上生活者が廃材などで粗末な屋根をつけている。ヘリからは見えないはずだ。
ここからなら彼の元上司が通る大通りまで人目につかず移動できる。

「派手にやります。そのうちに」

そうタイガーさんの耳元でささやき、スカイハイに向き直る。

「お久しぶりです、スカイハイ」

そう言って私はヘルメットに手をかけた。
シールドで暗かった視界が明るくなる。

「リツ……生きて……」
「その節はご迷惑を……ご心配をおかけしました。」

ぺこりとお辞儀をする。

「リツ、無事でよかったよ! だが……鏑木T虎徹!貴様をのがしはしない!!」

再び暴風が襲ってくる。首に下げていたゴーグルを装着し地面に手をつく。能力を発動するとともにアスファルトを変形させ防壁代わりにして風を防ぐとともに目くらましにする。

風が収まる前にビルの影へと走った。とらえようのない風を相手にするのは分が悪い。
もうどこにもタイガーさんの姿は見当たらない。うまく逃げてもらえることを祈りつつ、能力は切らずに身を隠し、更にタイガーさんを追いかけられないようガードレールを網のように変形させスカイハイを捕らえようと追いかけ回す。
ただの時間稼ぎなので本気で捕まえる訳では無いが、なんだか申し訳なくなる。

こう、虫取りアミで追いかけ回しているような……

「リツ! やめるんだ!」
「じゃあタイガーさんを追いかけないでください!」

はぁっ、と大きく息を吐く。
なかなかの質量を連続で変化させたせいでかなり体力が削られた。
行方不明としている間、どこまでできるか気を失うまで自分を試し訓練した。それこそ、本当に人の命を奪うことが可能な使い方もシミュレーションした。

疲労から重力が増したように感じる。腕が重い、倒れ込んでしまいたい。
肩で息をしながらどうするべきか思案する。これ以上長く発動させるのはまずいと体が訴えている。

「スカイハイ! 本物のワイルドタイガーはさっきの人! あのブラッ……黒いタイガーさんは偽者!
本物のタイガーさんが殺人なんてっ……」
ゆらり、と視界が傾ぐ。
まだダメだ。今倒れるわけには行かない。
ぐ、と両足を踏ん張りスカイハイを見上げる。
ガードレールの網は維持出来なくなり端のほうからサラサラと崩れてきている。

「スカイハイ、あなたはだれよりも素晴らしいヒーローだった!
なんであの人の正義を忘れてしまったの!!
スカイハイ!思い出してください!
タイガーさんは殺人なんかするわけない!」

「それは私の知るところではない!
彼が潔白だというのならその判断は司法の手に委ねるべきだ!
それとも……」

ピタリ、とスカイハイか飛行をやめた。
風が来るかと身がまえれば、そよ風一つ届かなかった。

「リツは……彼のことが好きなのかい……?」
「ーーは?」

自分でも飽きれるほど間抜けな声が出た。

「好きだからかばうのかい?」
いやいやいやちょっと待って欲しい。今なんて……

「思えばいつもキミはワイルドくんのことを気にかけていたね」
「ち、ちょっと待ってくださいスカイハイ! 中継されてるんですよ!? 何を言って……」

「ワイルドくんがいつ街を破壊するかわからないから、出動する度に双眼鏡でワイルドくんの姿を追って」

「あ、あの……」
「なにやらトレーニングセンターで内緒話をしていたこともあった」
「ご、誤解ですってば!」

そこまで言われてはた、と気づく。
「スカイハイ、トレーニングセンターで私と内緒話をしていたワイルドタイガーの姿はどんな姿でしたか?」

こてん、とスカイハイは首をかしげた。

「なぜ! 鏑木虎徹をかばうことがワイルドタイガーと繋がるんですか!」

もしかして。もしかして記憶操作に綻びがあるーー?

「……何を言っているんだいリツ」

『ボンジュー・スカイハイ。リツも確保して』
耳元のスピーカーからアニエスさんの声が聞こえた。容赦ないな、さすが敏腕プロデューサー。

グズグズしていると能力が切れて捕まってしまう。タイガーさんの無事と名誉回復まで倒れるわけには、捕まるわけにはいかない。

「……すまないリツ。君を捕まえなくてはいけないようだ」

言い終わるより早くサイクロンのような凄まじい風におそわれた。
体が浮き上がりそのままビルに叩きつけられる。

とっさにビルの外壁を変形させ足場を作る。
ごうごうと渦巻く風にバランスを崩されないよう後ろ手に両の手のひらを外壁にぺたりとくっつけた。
「ごめんね、スカイハイ。」

スカイハイにほほ笑みかける。
うまく笑え。今は捕まるわけに行かないんだ。
「またあえて嬉しい。直接声が聞けて嬉しいよスカイハイ。ほんとうに、嬉しかった」

偽りのない本心。
あの時病室で、言いたかった言葉を飲み込まずに紡ぐ。

「私、スカイハイのこと大好きだよ」

ギクリとスカイハイの体が宙でこわばった。

「でも、今のあなたの正義は正義じゃない。
ワイルドタイガーは鏑木虎徹。
あなたがワイルドタイガーだと思っているの黒いスーツの頭をもいでみればわかる。
あのスーツの中身に生体反応はありません」

そう言ってポーチの中に手を突っ込みチョークを数本まとめて取り出す。
そのまま能力を発動させチョークを粉状態にして風に乗せた。
「リツ!」
白い粉塵を目隠しに、ビルの外壁を崩し中に入る。
バレないように綺麗に外壁は修復させた。

「リツ!!」

「ーーあはっ」

笑いたくないのに笑える状況じゃないのに、笑いがこみ上げてくる。
「あはっ……は……もー嫌になっちゃうね」
頬を叩いて気合を入れ直す。
ビルの下まで降りて、地下道を通って逃げなければ。

「流石に拾ってないよね」

好きだとか、ナントカ。中継されていても、あの風の中でマイクをつけていない私の声は流石に拾わないだろう。あんなのが中継されていたら死ねる。

「うん、大丈夫。うん」



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