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頭上でヘリの音が大きくなった。
「!」
ブルーローズがフリージングリキッドガンを下ろした瞬間的、タイガーさんの後ろの壁にヒビが入り吹き飛ばされてしまった。
もうもうと舞い上がる土煙がおさまると、黒くカラーリングされたヒーロースーツのワイルドタイガーが現れた。
「ワイルド……タイガー」
『お!ようやく中継がつながりました!
と、いきなりワイルドタイガー!ニュースーツでワイルドに登場だぁっ!!』
マリオの実況に唇を噛む。
なんなんだこの黒いワイルドタイガーは。
「ふざけんじゃねえ……ワイルドタイガーは俺だよ!誰だお前!」
ゆらりと前かがみになった正体不明の黒いワイルドタイガーは上方へ跳ぶと急降下しタイガーさんに襲いかかる。
「どわっ」
攻撃をかわすがすぐに黒いワイルドタイガーは飛び込んできてタイガーさんに殴りかかってきた。
それからは一方的な黒いワイルドタイガーの攻撃。なんとかかわすも一撃をくらい吹っ飛ばされてしまった。
「タイガーさん!」
思わず声を上げてしまった。
一斉に皆がこちらを見た。
「……え?」
ブルーローズの間の抜けたような声。
僅かな機械音とともに黒いワイルドタイガーが私に向けてワイヤーを射出した。
「うわっ!!」
バイクごと引きずり下ろされた。
地面に叩きつけられる寸前、アスファルトを液状化させる。どぷり、と沈み衝撃を和らげた。
「やめてくださいよブラックタイガーさん」
言ってからはて、と思案する。
ブラックタイガーはエビの種類だ。
ワイヤーを外し、それを握ったままてくてくと歩き距離を詰める。黒いワイルドタイガーはどう反応して良いのか考えあぐねているようで悩ましげに首をかしげた。黒い装甲に触れ能力を発動させて「中身」を探る。
「中身」に生体反応なし。
ワイヤーを外して黒いワイルドタイガーから離れる。バイクを起こして本物のタイガーさんの方へと向かう。
私には攻撃しない。死亡説のある私のデータは入れる必要がなかったのかもしれない。
背後からまたワイヤーを射出する音が聞こえた。
「!」
ワイヤーを使って逃げようとしたタイガーさんの足に黒いワイルドタイガーのワイヤーが絡み付いた。
「タイガーさん!」
タイガーさんはワイヤーに引っ張られ地面に叩きつけられた。そのまま引きずり寄せられてゆく。
慌てて駆け寄り黒いワイルドタイガーのワイヤーに手を伸ばす。
分解して壊してしまおうと能力を発動させるが、今までの材質と違うのかうまくいかない。
ーーアポロンメディアのデベロッパーはすごいな。
「だっ!? やっぱリツちゃん」
「黙って踏ん張ってください! 今どうにかしますからっ!」
「ああん、もう見つけちゃってたのぉ!
ホント、美味しいとこ持ってくんだからタイガーちゃんは」
現れたファイヤーエンブレムは黒いワイルドタイガーにまとわりつき顔をつついた。
「ファイヤーさんまで……」
「おい……誰と喋ってんだよお前」
「いや誰ってワイルドタイガーも知らないの、あーた」
タイガーさんは引きずられないよう踏ん張りながら体を起こした。
「いやだって俺が!!」
「自分がワイルドタイガーだなんて嘘じゃない」
ブルーローズの冷たい声にタイガーさんは唖然とした。
ずるり、ずるりとワイヤーに引っ張られていく。
「なあ、どうしたんだよ、おまえら。……俺たちずっといっしょに、戦ってきた、仲間じゃねぇか!!」
ーーくそ、分解がうまくいかない。
焦りでうまく集中出来ない。
「……本当に、俺のことわすれちまったのか……」
「何言ってんのかしら。気味の悪い男。早く連行しちゃいなさい」
ファイヤーエンブレムはタイガーさんの言葉を冷たくあしらい、黒いワイルドタイガーに早くして、と促した。
ふ、とタイガーさんの力が抜けた。
「ちょ!踏ん張ってくださいよ!私は忘れてないんですからっタイガーさぁん!!」
黒いワイルドタイガーが近づいてきた。
左手を振り上げようとした、その時。
「これが貴様の最期なのか……」
「!」
テレビ越しじゃない。生の声。ルナティック。
どくりと心臓が脈打った。
炎をボウガンに移すとその先をタイガーさんへと向けた。
「!」
何をするつもりなの。タイガーさんは違うのに!!
「っだ!! ちょっ待て!!俺は犯人じゃ」
「刮目して己のすべてを省みろ」
ボウガンから発射された炎はファイヤーエンブレムたちの方へと次々に打ち込まれていく。
そのうちの一つがワイヤーにあたり切れた。
「!」
「どうしてお前……」
ルナティックがこちらへと飛び降りた。
「真の罪人を裁きの標に導くことこそ私の正義」
ーーやっぱり、やっぱりこの声は。
「翻って今貴様が偽りの正義の手に委ねられる事、それを看過するのは私の信条に反する」
「はあ?」
「鏑木虎徹。貴様の正義とはこんなところで潰えてしまうものなのか?」
私はバイクを起こしてエンジンをかけ能力を発動させる。
「タイガーさん!乗って!」
「お、おう!!」
突き当たりの壁を変形させる。タイガーさんの手が腰に回されたのを確認すると一気に壁を越え、追いかけられないようにまた壁を戻す。ちょっと変かもしれないけれどそこまで気を使っていられない。
「リツ、だよな」
「わかってるなら聞かないでくださいよ」
「生きてたんだな」
「……」
フルスピードで路地を突っ切る。どこか身を隠せそうなところはないだろうか。
「覚えててくれたんだな」
「あの壊しっぷりを忘れられるほど私は寛容じゃないです」
「……スカイハイには会ったのか? 会いに行ったりとかーー」
「ばっかじゃないですかー。 会えるわけないでしょう! タイガーさんかばってヒーロー敵に回して……どうやってヒーローの前にいけと!? 私捕まっちゃいますよ!!」
風で言葉がかき消されないように大声で叫ぶ。
「会いたいですけどーー!!」
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