のべる | ナノ


▼ 大人の線引き1

「ねーえー!今日ご飯一緒に食べようって約束したじゃない!」

「すまん、仕事が」

「いっつもそれなんだもん!」

休日、誘われるがままにリツの買い物に付き合っていた。

夕食も一緒に、と言っていたのだが、PDAの呼出音にその予定は叶わないものとなった。

リツは俺がヒーローだと知らない。
クロノスフーズのいち社員だと思っている。

リツは俺の先輩の娘だ。
俺も若くして結婚していればこれくらいの子供がいるのかと歳を感じる。

「また今度埋め合わせする。急ぎの用だ。一人で帰れるな?」

肩をぽんとたたけばすねたような目がサングラスの隙間から見えた。

「その今度がないから困るんじゃん」

と言い走って行ってしまった。

確かに彼女の言う通り俺たちの休みが重なることはほとんどない。

彼女はアポロンメディアの今一番売れているモデルなのだ。

まいったな。
思い返せば円満にこやかに別れを告げたことがない気がする。


なんでまたこんなになつかれているのか。







強盗を無事(キングオブヒーローが)捕まえ、虎徹を誘って飲みに出掛けた。

「なあ、先輩のこと覚えてるか?」

虎徹とは地元が同じで、共通の知り合いが多い。

「先輩?マシュー先輩か?」

うなづく。

「その娘さんがな、こっちに来てるんだ」

虎徹は目を丸くした。

「へえ、あのオチビちゃんが。今何歳だっけ?」

「18よ、虎徹おじさん」

「!」

その声に振り向けば、仁王立ちしたリツがいた。

「だっ!?リツちゃん!?」

「お久しぶり、虎徹おじさん。アントニオも、『久しぶり』」

チクリと言葉で刺された。出動前に怒らせてしまった怒りがまだ収まっていないらしい。

「おっきくなったなー!美人になって……ん?」

リツはサングラスを外す。

「あれ、もしかしてリツちゃんって……」

虎徹はチラリとモニターを見た。
そこではリツが出演している風邪薬のCMが流れていた。



「んだよ、そういうことか。すげーなリツ」

「見た目には恵まれたから。パパも若い頃はイケメンだったしね」

隣に座るよう勧めたが、リツは断った。

「夜暇なら連絡ちょうだいよ。おかげで飲み会捕まったんだから」

リツはバーの一角を指した。

「飲み会って、お前まだ未成年だろ」

「お酒は飲まないけどね。こーゆー集まりには引っ張りだされるの」

その飲み会がつまらないのだろう。リツの顔は曇ったまま、また集団の中に戻って行った。


「オチビちゃんがあんなになってるとはな。月日の流れって残酷ー」

虎徹は頬杖をついてリツの方を見た。

「お前の娘もモデルになるって言い出したりしてな」

「だっ! いやまてよ、楓可愛いしな。ありかもな」

「親バカ」

「んだとっ!」


お前はどう思う?
リツが俺に懐いている事を。



そう相談するつもりが、なんとなく言い出せずにお開きになった。



prev / next

[ back to top ]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -