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▼ 短冊に願いを

「リツもなんか書けよ!」
「なんですか、これ」

タイガーさんから渡された長方形の紙。端に穴があいていて紐が通されている。

「え、リツ知らねーの? 七夕だよ七夕」
「タナバタ?」

何のことかさっぱりわからずに首をかしげれば、タイガーさんがもう1枚同じ紙を見せてきた。

「ん……? 損害賠償請求されませんように……?」

「短冊っていってな、願い事を書くんだよ。で、笹に吊るす。
事務局に笹あったろ?あれに飾るんだ」

まず損害賠償請求されないためにも街を破壊しないように気をつけるべきだと思うけれど。

「昔昔織姫と彦星が……あとは検索してくれ。 まあ、昔話にかこつけたイベントだな」

ふうん、とうなづきペンを取る。
ニホンジンはイベントが好きなんだな。

なんて書こうかと考えてみるが、これだ、という願い事は浮かばない。

「タイガーさん、これ、日本語で書かないとダメ?」

「いや、別にローマ字だろうが英語だろうがいいと思うぞ。気持ちの問題だしな」

そうか。
でもやっぱりニホンのイベントならば最近習い始めた平仮名に当てはめて書いてみよう。


ゆっくりと、なれない曲線をえがく。

バランスの悪い文字だけれども、なんとか読めるだろう。


「お、かけたか。見せてみろよ」
「ダメー」

なんとなく気恥ずかしくて後ろ手に隠す。

「いーじゃんか見せろよっ」
「むーりー」

伸びてくる手を避けつつ事務局に行こうと自動ドアの前に立った時、その向こうから来たバーナビーブルックスJrに出くわした。

「わっ!バーナビー!」

ぶつからないようにと足を踏ん張り手元から意識がそれた瞬間、しゅっと手から紙が引き抜かれた。

「ゲットー! なになに……? ぼ……ぼでぃが、はしい?」

「あーっ!! タイガーさんのバカ!! 願い事は口に出したら叶わないんじゃないの!?」

「それは神社の場合だと思いますよリツさん」

「そうなの?」
よろけた私の肩をバーナビーさんが支えてくれた。

「リツ、ボディって……体?」
「違うよ、パートナー。 私もタイガーさんたちみたいにバディが欲しいなーって」
「あー、ばでぃ! 一本線が多いな。そして少ない」
「え、意味わかんない」

タイガーさんの手元をのぞき込んだバーナビーが目をしばたかせた。

「折紙先輩と、って事ですか」

「うん。だってさ、ヘリペリ入れたときは折紙サイクロンの隣ゲットだと思ったのにまさか別々に活動させられるとは思わなかったしね……」

これは誤算だった。
アポロンメディアが巻き起こしたバディ人気に次いでヘリペリデスファイナンスもてっきりバディ路線で行くと思ったのに。

「ほんとに折紙が好きなんだなーリツ」
「好きですよ悪いですか。 彼の為なら火の中水の中ですよ」
「……ほんとにな。」

タイガーさんは遠い目をしていた。悪いですか、好きなものは好きなんだもの。

「じゃあほれ、短冊もう1枚やるよ」
「ありがと。今度は間違えないように気をつける」

「そーじゃなくて」

ち、ち、ち、とタイガーさんは指を左右に振った。

「こーゆーのはどうだ。『彼に想いが伝わりますように』ってな!」
「ワイルドタイガーがみずむしになりますように」
「だっ! リツチャン!?」

「ダメですよ虎徹さん。人の恋路に茶々を入れては」
「ばーなびーのそとはねがうちまきになりますように」
「僕まで巻き添えですか?」

「恋じゃないって何度も言ってるのに!」


恋じゃないんだ。これは尊敬であこがれ。そう何度も自分に言い聞かせてきた。

「真っ赤な顔で言われてもおじさん信じらんないね〜」
「ちがうの!」


恋の好きを彼に向けたら、きっと彼は逃げちゃうから。
恋人として隣には立てないから、バディとしてくらい隣に立ちたいと願うくらいは許されてもいいと思うんだ。



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