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▼ バニーの日

「バニさん!今日はね、バニーの日だよっ!」

『キシシっ!だからサービスしといたぞバーナビー!』

出動要請があり、トランスポーターに乗り込めば頭にスピーカーをつけた斉藤さんと、その助手リツさんが出迎えてくれた。

「はい?」

「だからね、八月二日、ば、に、って事さっ」
「意味がわかりません」
この人はとても優秀だがとても変人だ。
変人の相手をしている暇はない。一秒でも早く現場に向かわなくては。

「まあ期待しててよ。最っっっ高の出来だからさ! もう今日限定じゃなくて本格的に取り入れたいくらいだよ! さあさあっ早く着替えた着替えた!」

よれた白衣をまとうカノジョの目は危ない狂人そのものだ。
一体何が最高の出来だというのだろうか。

ヒーロースーツに着替え、チェイサーで現場に出てみてもちがいはよく分からなかった。









『GOOD LUCK・MODE』

耳元でデジタル合成の音声が聞こえた。
「?」
もうすぐ能力が切れる。だがもう強盗犯は確保したので発動させる意味が無い。

ノイズと共に視界に花と人参が舞った。
「は?」
「ば、ばにーちゃん?」

虎徹さんの視線が僕の頭部に向けられている。

「お、お耳がっぴょこってっ……」
虎徹さんはバンバンと膝を叩いて笑っている。

嫌な予感しかしない。
「わあっ! バーナビーさんうさぎだね!」
「おや、バーナビーくんはビジュアル変更があったのかい?」
「あらん? ずいぶんと可愛らしくなっちゃって」


『あら、バーナビー。よく似合ってるわよ』

アニエスさんまで茶化してくる。ヒーロースーツの頭部に手をやれば細長いバルーンのようなものがついていた。
ーーあの人はまたくだらない悪ふざけを!!

そのまま手に力を込めて握り潰せば予想に違わぬパン、と乾いた音がした。

『あー! ちょっとバニさん!!』
耳元のスピーカーからリツさんの非難するような声が聞こえた。

『せっかく仕込んだのにー!』
「ああすみません、力加減を間違えました」
『ウソだっ!! もう能力切れてる!!』

黙殺してへにゃりとした手の中のものを見れば文字が書いてあった。

「全くあの人は」


ーー我らがスーパーヒーロー! 仕事終わったらラボにおいで! 楽しいことしよう!





「騙されませんよ。 また僕を実験台にするつもりでしょう」
『えー、技術の進歩と向上のためにはトライアンドエラーは大切だよ』

「お断りします」

『バニさんのケチ!!』

『それが正解だぞバーナビー!! 今回はリツが用意したシュミレーションプログラムはなかなかにホラーだ。 タイガーにしておけ!!』
『あっ!ちょっと斉藤さんばらさないでくださいよ!!』

「ホラー?」

『対ゾンビ駆逐用シュミレーションプログラムだ。ホログラムがエグいぞ! キヒッ』

「虎徹さんを向かわせますね」

『ええー! ハンサムがどういうリアクションするのか見たかったのにー!』

技術の進歩と向上の為ではなかったのか。

まったくこの人は。
いたずらばかりの研究員にため息をつく。

「ああそうだ。リツさんも一緒にシュミレーションルームに入るなら、僕も参加しますよ」

ぎゃいぎゃいとうるさかったリツさんの声がピタリとおさまる。

「市民を守りながらの方が訓練になりそうですね」

『え、ば、バニさん?』
「大丈夫、守って差し上げますよ」

一瞬おいて悲鳴が聞こえた悲鳴に思わず口許が緩んだ。




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