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バーナビーくんは見事ジェイクを倒し両親の仇をとった。

しかしジェイクは逃走しようとし死亡、クリームという仲間の女性の意識も戻らない。

「そうですか、バーナビー・ブルックスJr.が……」
「凄かったよ。もう街中お祭り騒ぎさ」
「……よかった」

リツはあの後現場にいたアポロンメディアの二人に助け出され、意識のないまま病院に運ばれた。

彼女が打たれたのは鎮静剤で、時間の経過とともに薬が切れ意識を取り戻した。
怪我も痣という形で見る分には痛々しいが、本人は歩行も問題ないと言って、ベッドの上でパソコンを開いて仕事をしていたりする。

「退院が決まったと聞いたよ」
「明日には退院できるって。ただ……」

ただ。

「兄から聞きました。私の能力に批判があつまっているって」

「……あれは……気にしなくていいと思うよ。一時的なものさ」

「そうでしょうか」
彼女の表情は冴えない。

修繕屋として彼女はあちこちヒーローや、そのターゲットが破壊したものを直してきた。
けれども彼女の能力は修繕ではなく、ジェイクに曝露されたその能力は市民に恐怖を与えるのに十分なものだった。

「気にしてはいけないよ。私の能力だって、ファイヤーくん、ドラゴンキッドくん、バーナビーくんやワイルドくんの能力だってーー」

ーー人を死に至らしめることが出来るのだから。

そう言いかけてぞっとした。
私はヒーローだ。彼らだってヒーローで、能力をそんなことに使うことなんてありえない。
ありえないからこそ、口に出すことがはばかられた。

「そういってもらえると気が楽です。 けれど、シュテルンビルトを恐慌状態に陥れたウロボロスが欲した能力であるというのは、やはり市民に不穏な感情を与えます」

「……」

「キースさんには先に言っておきます。 私、引退します」
ぎゅ、と彼女は手を握りしめた。

「アニエスさんにはこれからいうつもりです。 明日、壊されたところの修繕を手伝いに行って、それを最後の仕事にしようと思っています」
「そんな……」

「それから……私の顔も知れてますし、シュテルンビルトには居られませんから、引っ越そうかと思っています」

引っ越す?
だめだ。それではもうリツに会えなくなってしまう。

「どこに、行くつもりなんだい?」
「……それはまだ。でも、決まったとしてもたぶん言えないと思います」

胸がざわつく。
ジェイクに奪われて、息ができないくらい苦しくなった。苦しくて苦しくて、ぐるぐると己の中で渦巻く感情をどうして良いのかわからなくなって、
やっとまた手の届くところに戻ってきたというのにまた、遠くへ行ってしまうなんて。

ベッドに座るリツに手を伸ばす。肩をつかんで引き寄せれば彼女の体はすっぽりと私の腕の中に収まった。

「きっキースさん!?」
「さんはいらないと前も言ったよ」
「あ、あのあのっ」

柔らかい。表情は見えないが、ぴしりと固まってしまっているリツがとても可愛らしい。

「どこにも行かないでほしい。約束した事覚えてるかい? すべて終わったら、一緒にどこか出かけようと、言っただろう」

楽しみにしていると、応えてくれたじゃないか。

「リツ……私はリツのことが好きなんだ」

ああ。言ってしまった。心臓がドクドクとうるさい。リツに聞こえてしまうかもしれない。

ぴくりと腕の中の彼女が反応した。

「リツのことが好きなんだ。 どこにも行かないで欲しいんだ。わがままだというのはわかっているけれど……だめだね、我慢出来ない」

本当は、こういうのは花でも贈り物を用意したかったのだけれど仕方ない。グズグズしていては彼女は手の届かないところに行ってしまう。

「世間の評判からも君を守ってみせるよ。だから……一緒にいてくれないか」

抱きしめる腕に力を込めた。












ーーリツのことが好きなんだ


何も答えられなかった私にキースさんはまた明日来るよ、と言い帰っていった。

好きだと言われて歓喜の悲鳴を上げそうになったがなんとかこらえた。
心臓が早鐘をうち、頬に熱を感じたのでたぶん顔は真っ赤だったと思う。浮ついた心のままに私も同じ気持ちだと告げたくなったが、今修繕屋というネクストに向けられている世間からの評論とキースの仕事を考えると私はなにも言えなかった。

断れば良いのだ。そう頭の中では理解しているのに、喉までは言葉が用意されていたというのに私の口はうごかなかった。

私はずるい人間だ。
スカイハイという博愛の片隅に自分がいるだけで満足だと、そう思っていたのに。
いざ手を伸ばせば掴めるかもしれないとわかった途端ずる賢い算段が浮かぶ。

私の今の状況は彼のことが好きだと、それだけでどうにかなる問題でないことくらいわかっている。
そしてそんな思考のループをかれこれ三時間は繰り返している。

「うううう……」

病院の真っ白で清潔な枕に顔をうずめる。


好き。
そばにいたい。
さっきみたいに抱きしめられたら幸せ過ぎて死にそうだけど、それ以上のことだってキースとなら……

そこまで考えてまた呻く。

「!」

病室のドアがノックされた。
こんな夜中に誰だろう。
ナースは返事をしなくてもノックの後はすぐにドアを開けるし、面会ならばまずはナースもしくは病棟クラークが確認にくる。

「……どうぞ」

5秒ほど考えてから返事をした。
そこに現れた人物に私は瞬間的にネクスト能力を発動させた。


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