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「なんかつまんねえし柱もう2、3本やっちゃう?」
「……っは?」
ーー今なんて
耳を疑うような言葉に一瞬能力が途切れた。
「ほらほら俺を止めねぇと〜ヒーローごっこしてみろよ。おまえのこわーい能力見せてやれ」
飛んでくるバリアの攻撃をまともに喰らいたくない。痛みで思考が鈍るが能力を発動させもう一度地面の土を使って壁を作り上げる。
「どうするよ。 お前がちょびーっと我慢すればシュテルンビルトの大切な市民様はみんな助かるんだぜぇ?」
やはり土は硬度が足りず砕けてしまった。
襲い来るバリアのムチになす術なく翻弄されるなぶられるままだ。
『リツ!』
幻聴だろうか。
耳元のイヤホンからあの人の声が、聞こえた気がした。
『リツ!』
もう、起き上がれない。
『リツ!起きるんだ!逃げろ!』
倒れたままかすむ視界にジェイクの足がうつった。
「はーい、修繕屋いっちょあがり」
首に小さな痛みが走った。
低く重い耳鳴りがする。
渦の中に引きずり込まれるようなめまいと耳鳴りに私の意識は飲み込まれた。
*
アニエスくんに頼み込んでリツに通話を繋いでもらった。
リツの能力は素晴らしいのだ、恐ろしいものではないのだとどうしても、今伝えなくてはいけないような気がした。
なのに画面越しに酷くいたぶられる姿を見て、私の口はリツの名前を呼ぶことしか出来なかった。
立て続けにジェイクの攻撃を受けたリツはついに起き上がらなくなった。
笑いながら近づくジェイクの手にあるものを見た時、背筋が氷った。
逃げろ、と叫んだが、彼女に届いただろうか。
ジェイクは横たわるリツの首に、手に持つ注射器を刺した。
「リツー!!」
咄嗟に腕の点滴を引き抜きベッドから出た。
今すぐ彼女のところに行かなければ。取り返しがつかなくなる。
「おいまてスカイハイ!!どこいくつもりだ!! 」
ロックバイソンくんに抑えられるが構っていられない。リツが、大変なんだ。
「リツを助けに行く! 連れ戻さなければリツはーーっ!! はなしてくれ!!」
「落ち着け!! お前も俺も敵わなかった。今行ったところであいつを助けるどころか余計事態が悪化するだろうが!!」
「では彼女を見捨てるのか!?」
「そうは言ってない!!」
『待機に決まってるでしょ!!』
「!」
折紙くんのPDAからアニエスくんの怒号がした。
『リツの事はこっちでジェイクと交渉するからあんた達はそこにいなさい!
怪我でまともに動けないくせにちょろちょろされても困るのよ!!
明朝には別の作戦で動くんだからあんた達がちょろちょろして注目されてバレたらどうすんの!!』
「しかし……」
『しかしも何もないのよ!! リツは体張って支柱50パーセント守ったのよ。余計なことしてリツが守った支柱壊されたらどーすんのよ』
「……」
何も言えずにいるとアニエスくんはため息をついた。
『だからリツのことは任せてちょうだい』
折紙くんとロックバイソンくんが物言いたげな視線を送ってくる。
がまんしろ、とそういうことなのだろう。
「……はい」
何も出来ない自分の不甲斐なさに、唇をかんだ。
画面の向こうでジェイクは舌を出し手を振っている。その後でリツはマッドベアに運ばれて行った。
悔しい。
リツひとり守れずに何がヒーローだ。
今すぐにでも助けに行きたいのに。
「堪えろ、スカイハイ」
絞り出すようなロックバイソン君の言葉に頭ではわかっていても頷くことは出来なかった。
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