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「やっと来たかヒーロー」

ヒーローTVのヘリのライトに照らされながらスタジアムに入った。

「私はヒーローではありませんよ。 あくまでもそれに準ずるもの、という但し書きがつきます」

「細かいねぇ。パパにそっくりだぜ」
「……父をよく存知のようで」
「あーあよく知ってるぜ。てっきりパパみたく逃げたかと思ったんだけどなァ」
「私は父の記憶がないもので。記憶があったなら逃げるという選択肢もあったかもしれませんね」


ジェイクから15mほど離れた位置で足を止める。

「早速ですが……私をここに呼んだ理由をお聞かせ願いますか。父のことを生中継で言うくらいです。まさか私にほかのヒーローと同じく戦えと言うわけじゃないですよね」

ジェイクはひゃは、と笑った。
奴はバリアをムチのようにして攻撃する。まともに戦ったところで勝ち目はない。戦いは避けるべきだ。

「お馬鹿チャンじゃなくて安心したぜ。俺の部下にしてやる」

「……」
やっぱりか。

「パパと同じ職場で……いいや、ネクストの国の幹部にしてやるよ。お前の能力は修繕なんてみみっちい使い方似合わねェ」

はいそうしますよろしくお願いします、なんて言えるわけがない。
「うーん、困りましたね」
「別に今すぐ返事をしなくてもいいけどな」

え?
謎の譲歩に思わず聞き返しそうになった。
何のつもりだろう。

「ホラ、口だけでOK貰ってもよ、裏切るかもしれねーわけだ」
「……」
それは、正直考えたけれども。

「ぜったい服従させるにはどうしたらいいと思う?」

ニタリとジェイクは笑った。

「!」
反射的に能力を発動させスタジアムの地面の土で壁を作る。
案の定ジェイクの攻撃を受け止めた土の壁は崩れてしまった。崩れゆく壁の向こうでジェイクの体は仄赤く発光していた。

ーー赤?

その意味を考える前に第二撃がくる。
走って避けるもさけ切れずに肩を打たれた。

「ぅあっ!」
痛い。痛い痛い痛い。

「サーカスの猛獣に芸を仕込む時どうするかわかるか?」

「……」
嫌な予感しかしない。
私をサーカスの獣よろしくムチで躾ようというのか。

「こうして猛獣の矜持を叩き折ってくんだよ!」

空を裂く音が聞こえると同時に体に衝撃と痛みが走る。
とっさに腕で頭部をガードするがあまり意味はなかった。
10メートルは弾き飛ばされただろうか。
痛みに耐え体を起こせば鼻から暖かいものが流れた。
サイアクだ。中継されているのに。
袖でぬぐいジェイクを見る。楽しそうに笑っているがこちらはまったくもって楽しくない。

ズキズキと痛む体に能力を発動したくなるが、もう少し温存するべきだ。

「お?ひ弱な修繕チャンはもう立てないと思ったんだけどなァ」

「……」
寝てていいなら寝ていたいよ。
けれどジェイクと対峙しているのに寝るなんてそんな命知らずなことは出来ない。いのちだいじに。

「そろそろ仲間になりたくなってきたか?」
「……困りましたね。そう答えてもあなたは信じない、もっと痛めつけられるだけだと予想しますが……」











『そろそろ仲間になりたくなってきたか?』

「リツ……」
画面の向こうでリツが戦っているーーいや、痛めつけられている。

バリアのムチにいたぶられる彼女を見ていられなくて何度も目を瞑ってしまおうかと考えた。
けれどもその思惑とは裏腹に私の目は彼女の姿から離れることは無かった。

「ああまた! リツさん!」
折紙くんが声を上げた。さっきから手で顔を覆っては指の隙間から覗き見、声を上げている。

『仲間には……なりたくないですよ。私は、父とは違う』

『違わねぇよ。
修繕とかさぁ……もったいねーの。もっといい使い方があるだろ?
物質を破壊再構築。分子レベルで操れるなんてサイッコーじゃねぇかァアアア!!』

ジェイクはやや芝居がかった所作で両手を大きく広げた。
リツの本当の能力は物質を分子レベルで操ること……?

『動かず人を殺せる! ヒーローにしておくにはもったいねぇ能力!』

『……』

リツは何も言い返さない。リツの能力が人を殺せる能力?
そんなはずがない。だって彼女は私の怪我を直してくれた。

『シュテルンビルトのクソ市民さまぁ〜!修繕屋はァ、カンタンに人殺しできるこわーいネクストだったんだってよォ!!傑作じゃねえか!』

「あいつ!」
ロックバイソンくんが拳をベッドに叩きつけた。

『正義じゃねェ。リツ・ニノミヤ、そのネクスト能力は悪だ。テメーはこっち側の人間だろ?』

『だまれ』
ひどく暗い声が聞こえた。
リツの表情は見えない。

『おー怖い怖い。そうだな、お前はヒーローの中に混じって正義のヒーローごっこが好きなんだもんな』
『私はあなたのためにこの能力を使ったりしない!』

『でもよォ……これは生中継だ。シュテルンビルトの皆様はお前の能力のこと知っちまったなぁ……困ったなぁ……
俺をお前のネクスト能力で殺すか? おまえのその素晴らしい能力を生中継して市民に恐怖を植え付けるか?』

「……なんてやつだ」

『ウロボロスはお前を歓迎するぜェ』

「歓迎だなんて……リツ……」

どうかリツ、ジェイクマルチネスに屈さないでくれ。
私は、リツの能力がどんなものだって、怖がったりしないよ。

ーー大丈夫、死にません。約束します。

少し前に聞いたその言葉が、今は別の意味に思える。

ウロボロスが……ジェイクマルチネスが必要とする能力だから殺されない、そうリツは言ったのだろうか。

「リツ……」

こちらの言葉は、彼女には届かない。

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