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黒い中型のバイクを飛ばした。
シルバーステージは支柱の破壊による崩落を恐れてかほとんど人がおらず、法定速度は知らないふりをして飛ばした。

案内された病室に行けば包帯だらけの痛々しい折紙さんがいた。
となりのベッドにはロックバイソンさん、そして

「良かった! スカイハイ!」
両頬に絆創膏を貼り付けたキースさんがいた。

「リツ!」

ベッドにかけよればゆっくりとキースさんは体を起こした。
「あっダメですよ無理したら……寝ていてください!」

慌てて制止すれば、キースさんはすまない、と目を閉じた。
腕で目元を覆い、悔しげに呻いた。
「私が勝って終わらせるつもりだったというのに……」

「キースさん……」
『ああ? 俺に指図すんじゃねーよ!』
「!」

テレビからジェイクの声が入ってきた。

「あっ!!タイガーさんは!?」

移動中に終わってしまったのだろうか。
カメラの視点が変わるとマスクが割れ倒れているタイガーさんが写った。

「うそ……」

『こんなエキサイティングなショーを夜通しやるのは賛成できないわ。
深夜じゃ視聴率が取れないし、せっかくのショーが勿体ないと思わない?』

アニエスさんの声だ。
このままじゃ時間が稼げない。アニエスさんの言葉にジェイクは賛同し、そのまま今日が終わるかと思われた。

『じゃあ、今日の締めくくりに特別なショーをやろうか』

ニタリ、とジェイクが笑った。

『修繕屋ァ!! 見てるんだろォ!? 出てこい!!今日はお前のヒーローデビューだァアアア!!』











「ーーえ?」

思わず画面に聞き返した。

「なん……だと!?」

ロックバイソンさんまで画面に聞き返した。

「だ、ダメだぞリツ!! 絶対行ってはダメだ!!」
ガバリとキースさんが起き上がり私の手をつかんだ。
「ワイルド君でさえ歯が立たないんだ! 絶対にダメだ!」

『申し訳ないけれど、うちの修繕屋はヒーローライセンスがないのよ。出せないわ』

「そうだアニエス君もっと言うんだ!」
キースさんまで画面に話しかけている。
『ああ? テメーらの事情なんか知るかよ。いいんだぜェ……支柱一気に半分ドッカーンってのも面白ぇしな』
『修繕屋リツ・ニノミヤ……あなたの能力はお父様譲りなのよね』

ーーそこまでばれていたのか。

「リツダメだぞ! 絶対ダメだとも! 行かせないからね!」

ぐい、と腕を引かれて体制を崩したままキースさんの腕に囲われた。
「ちょっ!え?」
頬が熱い。これは絶対顔が赤くなっている。
「スカイハイ……元気ならせめてそういうのは病室の外でやってくれないか?」
「おあついでござるな」

さらに二人の視線も集まる。
「リツ! 行かせないぞ! 絶対だ!!」
「……あの、離してくださいスカイハイ……」

腕のPDAが震えた。
『おあついのはいいんだけど、中継見てたかしら?』
「いっいやあっ! スカイハイ離してくださっ」
「アニエス君! 断ってくれ! リツはヒーローじゃないんだぞ!!」

離そうとしない元気なキースさんにアニエスさんはため息をついた。
『リツ、あんたはどうするの? 行くか、断って支柱の50パーセント一気に直すか……』
「50パーセントに決まっているだろう!!」
「ムリデスヨーハナシテクダサーイ……」

ブロンズの支柱を50パーセント破壊したとして、私はそんなに直せない。
仮に直すことが出来たとしても崩落後の修復だ。瞬時に直すことが出来る訳では無いのだ。
「瞬間的な修復は無理です。支柱が壊れてからタイムラグが発生して間違いなく崩れます。
2、3本同時ならともかく流石に50パーセントは……」

けれども。

「アニエスさん、私、スタジアムに行きます」
「はぁ!?」
「リツさん!?」
「絶対ダメに決まっているだろうリツー!!!!」


ロックバイソンさんに折紙さん、キースさんが同時に叫んだ。なんだみんな結構元気だ。

『本気なのリツ?』

アニエスさんの眉間に皺が寄る。
「ブロンズが崩壊したらその上のシルバーとゴールドだってだるま落としで潰れますよ。
もちろんダウンタウンだって。
私は100パーセント勝てませんが、崩落の回避はできます」

「ダメだリツ……」
キースさんの手に力がこもる。
ゆっくりと私は体の向きを変えてキースさんを見た。

「大丈夫、です。絶対死なないと約束します」

そうだ。私は死なない。
ジェイクは私の能力の本質を知っている。
ウロボロスが利用した父のことを知っている。
ならば殺さず痛めつけてそのまま監禁コースだ。
私自身の身柄を持って取引を持ちかけて、なんとかジャミングシステムを配備するまでヤツの機嫌を損ねないよう時間を稼ぐことが出来ればいい。

キースさんの腕をゆっくりと外し、立ち上がる。

「大丈夫、死にません。約束します」

「リツ……いやだ……やめてくれ……」
キースさんの表情がくしゃりとゆがんだ。
そんな顔しないで欲しい。

「ほんとに行くのか……?」
「はい。ロックバイソンさん、スカイハイのことお願いしますね」
「リツ! 行かないでくれ危険すぎる!」

キースさんの言葉に胸がずきずきする。
「テレビ消してていいから。 いってきます。」

なんとなく気恥ずかしかったけれども、キースさんの頭を抱きしめた。

死にはしないと思う。
けれども、この戦いが終わったあとまた同じ場所には帰れないかもしれない。




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