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すっかりひと気のなくなったブロンズの小さな商店に入る。
店主も避難しているのだろう、ガラスが割られ中を荒された跡がある。
こんな時にも、悪いことをする人がいるなんて。

バックヤードに入り従業員の休憩スペースのテレビをつけた。
ボリュームを絞り、つけっぱなしにする。

「アニエスさんブロンズにつきました。位置情報わかりますか」
『OKリツ……そこから支柱大丈夫なの?』
「万が一の時は気合でやって見せますけど……あの、人質大丈夫ですか?」

ジェイク・マルチネスは更に要求を出した。反ネクストの人間を捕まえて差し出せ、と。

『それはそれでこっちで何とかするわ』

なんとか……なるといいのだけれど。
ポーチの中でケータイが震えた。
アニエスさんとの通信を切りスマホを取り出せばそのディスプレイには想像したとおりの名前があった。

「……もしもし」
『何やってるんですか今すぐ戻りなさい!』
や、やっぱり怒るよね……

会議で今回の作戦が耳に入り、こうして電話をかけて来たのだろう。
「ごめんなさい。お小言は後で聞くから、ね?」
『……その声の様子だとまだ四回目は使っていないようですが』
「うん、まだ。まだステージが崩れるほどじゃないから……本当は今すぐにでも直してしまいたいんだけど、私の事を向こうに意識されると厄介だからって言われて」

『……』
静かなため息が聞こえた。
『無理はしないでください』
「うん」
『一日に三回以上使おうとすること自体が無茶な話ですが』
「うん」
『覚えていますよね、昔『練習』であなたがどうなったのか』

「……うん」
『……』
またため息。きっと眉間をもんでいるのかもしれない。

『なるべく安全なところで。必ず拾ってもらえるところにいるんですよ』

「分かってます。大丈夫、です」

『スカイハイに助けを求めるんですよ』

「ーーえ?」

『ですからスカイハイに「きっ、キースは今関係ないでしょっ!」
『おや、名前を呼ぶほど仲良くなったようですね』
「っ! こんな時にからかわないでっ!」
『……呼ばれたのでそろそろ切ります。何かあればすぐに連絡するんですよ』

通話が途切れたとともにテレビの映像が切り替わった。

『市民の皆様にお伝えしなければならないことがあります』

ミスターマーベリックが映し出された。
何の会見だろう。

『そして今、静かに闘志を燃やす男がいます。……私は今こそ明かすべきだと考えました。彼がなぜヒーローになったのか……』
斜め後ろに立つバーナビー・ブルックスJr.がアップになった。
ーーまさか、バーナビーのことを?

両親の仇だと、テレビで公開するつもりか。
ミスターマーベリックの手腕に舌を巻く。
ネクストであるヒーローへの一般人のもつ不信感を彼の過去と決意、闘志で払拭するのみならず、プラスの感情へと修正しようというのか。

なんだか道具のようだ。


会見はすぐに終わった。これを見た市民は少なからず彼を応援するだろう。憎むのはネクストではなく、バーナビー・ブルックスJr.の仇であるジェイク・マルチネス当人であると、うまく誘導されることになる。













「ヒーローを潰す中継?」

『そう。それの中継の用意をととのえる代わりに支柱の危機はひとまず大丈夫らしいの』

待機と言っても何もすることなく、人のいない店の中で息をひそめるだけ。何もすることなく少し疲れてきたところでアニエスさんから通信が入った。
『ひとまず休憩にしましょう。戻って来れるかしら』

ジャスティスタワーを見上げ、最短かつ人目につかないルートをはじき出す。
が、すぐに打ち消す。
「ジェイク・マルチネスが約束を守るとは限らないので……ここにいます」

『そう……わかったわ』


程なくしてまたウロボロスの中継が始まった。
『ヒーローを愛するシュテルンビルト市民の皆様ごきげんよう。
これよりジェイク様スペシャルセブンマッチを公開生中継いたしますわ』

セブンマッチ?
七大企業に所属するそれぞれのヒーローと戦うつもりか。

『もし一人でも俺に勝てるヒーローがいたらパワードスーツは全部撤収。 この街は自由にしてやる』

『ではもしヒーロー全員が負けてしまったら?』

『この街をだるま落としで壊滅させますわぁ』

「!」

なるほど。だからひとまずは支柱は安全なのか。
『せいぜい頑張れよ』

バカにしたように投げキッスをするジェイクに苛立つ。こんなやつ、みんなが負けるわけがない!


PDAを操作してアニエスさんを呼び出す。

「アニエスさん中継見ました。やっぱり一度戻ってもいいですか」

『いいわよ。誰か迎えに行かせる?』
「目立つのでひとりで大丈夫です」

フルオートのハンドガンをポーチから取り出しホルスターをセットする。近くに人影やヘリなどがないことを確かめ飛び出した。





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