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アッバス刑務所が襲われた。
ネクスト用の特殊房がある刑務所で、襲ったのはブロックスブリッジにあらわれたパワードスーツと同じマシンーーつまりは同一犯、ウロボロスだ。

アッバス刑務所からは多くの受刑者が逃げ出した。
警察とヒーローがかなり大規模な捕獲作戦を展開している。

「困ったことになりましたね」
「ごめんなさい……」

私はへリポートの修復を終え、まだ早朝だというのに三回の発動制限で今日はもう何も出来ずひとりジャスティスタワーに戻り、緊急事態だと夜中に出勤してきた兄の元にいる。
「過ぎてしまったことは仕方ありません。またしばらく隠れていた方が良さそうですね 」

テレビ中継されている中、ウロボロスの目の前で物質の分解中のところで止めてしまった。
ウロボロスで破壊工作をしていた亡き父と同じ能力だと見られてしまったかもしれない。

「気づかれていないかもしれない、と楽天的に捉えるのはよくありません。今回ばかりは……」

今回ばかりは

その後に続く言葉を考えたくなくてぎゅ、と目をつむった。

ぽん、と頭に手が置かれた。

「大丈夫。なるべく私から離れないでください。今夜は私も帰れそうにありません。ここのソファでお休みなさい」

さっきからひっきりなしにFAXや電話がなっている。アッバス刑務所のサーバと端末をすべて壊され、受刑者のデータにアクセス出来ず、司法局に照会の依頼が大量に来ている。

「私に手伝えることある?」
ユーリさんは首をふった。
「手を借りたいのもやまやまですが、関係者以外に見せて良いものではありませんから」

そうか。私は司法局に務めているわけでもないから手伝えないし、ヒーローでもないから逃亡者たちを捕まえる手伝いもできない。

なにも、できない役立たず。

「……紅茶、入れてもらえますか」
「はい、ユーリさん」

沈んでゆく心に、小さな心遣いが嬉しかった。












いつの間にかソファで眠ってしまったらしい。PDAの振動で目が覚めた。
ユーリさんはいない。

「はい」

『リツ、大丈夫かい?』
「大丈夫です。キース、さん。昨日はお疲れ様でした」

昨夜はアッバス刑務所から逃げ出した受刑者を追ってヒーローは朝まで駆け回っていたはずだ。
ヒーローTVの中継を見ていたが途中で寝てしまいあやふやだ。

『さんはいらないよ。 ……そこにテレビはあるかい? なんだか様子がおかしいんだ』

おかしい?
テレビをつけてみれば、画面には大きくウロボロスのマークが映し出されていた。

「これ……」

どこの局に変えてみても同じ映像。
『昨日のテロ集団のマークだ。まだ、事件は終わらないようだ。私はジャスティスタワーに行くけれど、リツは』
「私は昨夜からジャスティスタワーの中にいます。兄の…司法局におじゃましてーー!」

それまでかわらなかった画面に女性が映し出された。

『シュテルンビルト市民の皆さん、ごきげんよう』

「!」

この人は!

「サーカスの広場にいたーー!」

『我々はウロボロス。今日は皆さんに重大な発表がありますの』

ウロボロス。
名前とその影に怯えて生きてきた。その中のリアルな『人』

『ジェイク様、どうぞ』

ジェイク、と呼ばれた男が画面にあらわれた。

『よお。シュテルンビルトの諸君』

派手な男だ。この男も、ウロボロス。

手が震える。深呼吸して落ち着かなくては。

『大丈夫かい、リツ』

キースさんの声にはっとした。
「だ、大丈夫です。なんでもありません」
『そうかい?顔色が悪いようだけれど』

バーナビーさんも、これを見ているだろうか。
ウロボロスを、両親に手をかけた人物を探していたバーナビーさんは、大丈夫だろうか。

『リツ……?』

キースさんは心配そうに私の名前を呼んだ。薄々気づいてるのかもしれない。私が以前逃げ出したことの原因と今の、状況を。

「大丈夫。です」


自分に言い聞かせるように何度も、大丈夫だと繰り返した。




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