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最悪だ。
パワードスーツの銃口がこちらに向けられた。

今ここで動いたら橋の修復が。途中で止めたら私の能力の正体が。

バーナビー・ブルックスJr.が蹴りを入れて銃口をそらす。
「リツさん逃げてください!」

バーナビー・ブルックスJr.の声とともに体が浮いた。

「スカイハイ!」
スカイハイに抱き上げられ気が逸れて能力が途切れてしまう。修復が間に合わなかった鉄骨やワイヤーの粒子がサラサラと風で飛ばされる。

ああ、やってしまった。

「大丈夫かいリツ、そこに下ろすよ」

そこ、と言われたスペースにはヒーローTVの中継車がとまっていた。

ワゴンの近くに下ろしてもらい、急いでアニエスさんに連絡する。

『ハァイどうしたの?』
「アニエスさん、さっきスカイハイに助けられた時の映像、もう流れました?」
『30秒のラグはあるけど、流れたわ。何かあった?』
「……いえ。とりあえずもう一度橋を……」

あちこち亀裂が入っている。そのままにしておくわけには行かない。

橋の入口に急げば激しい銃撃はやんでいた。
タイガーさんの手にはくまのぬいぐるみがあった。

「なんだこれ。 どーいう事?」

「どうしたんですか」
走って乱れた息をととのえながらタイガーさんにたずねれば、首をひねりながら質問で返された。

「リツちゃん、これなんだっけ……なんとかベア……」
「マッドベアじゃないですか?」
「そうそれ! マッドベア!! 犯人はマッドベアだ!」

パワードスーツのコックピットから出てきたという最近はやりのマッドベア。
やはり犯人が危険な場所に残るわけなく、パワードスーツは遠隔操作だったようだ。

「あ……?」

タイガーさんの気の抜けた声に思考を戻せば、タイガーさんの手からピョンとマッドベアが飛び降りた。

「動いた!」

そのままマッドベアは走り、軽やかに車の上へ飛び乗り、またジャンプをして海に飛び込んだ。

「まっ!まて!こらっ」

「タイガーさん! あの車人が乗ってます!!」

橋のガードに乗り上げ後輪だけでかろうじて引っかかっている。が、マッドベアのはねた衝撃でグラりと車体が傾いた。

「やべっ!落ちる!!」

タイガーさんはワイヤーを射出し車体を引き戻そうとするが、能力終了時間を告げる電子音とともにヒーロースーツの光が消えた。

「え!? ちょっとタイガーさん!!」

急いで駆け寄るが、ずるりずるりとタイガーさんは引っ張られていく。

どうしよう!

目の前に赤いヒーロースーツが現れた。
バーナビー・ブルックスJr.はワイヤーをつかむと橋を支えるワイヤーに引っ掛けタイガーさんごと反対側に飛び降りた。
ピン、と張ったワイヤーで双方の落下が止まる。

「よ、良かった……」

バーナビー・ブルックスJr.がいるなら大丈夫だろう。

さあ今度こそ橋の亀裂を、と修復中断した箇所に狙いを定め居住いを正すと能力を発動させた。


「はあ!? 僕もう能力切れてるんですよ! 周りはあのマシンだらけだしこうでもしなけりゃあなたいまごろあのくるまとうみのなかですよ! 大体おじさんこそ考えなしにワイヤーを…」

近くでバーナビー・ブルックスJr.がタイガーさんに文句を言う声が聞こえる。

ちらりとそちらを見やれば、一体のパワードスーツがマシンガンを動けない二人に向けていた。

「!」

途端、大きな波が上がり凍りついた。
パワードスーツも電撃を浴びて動きを止めた。

「だらしないわね!」
「やっぱボク達がいないとダメだね!」

「ブルーローズ! ドラゴンキッド!」

続いてロックバイソンさんが肩のドリルでパワードスーツをおしていた。

「アンタたちだけにポイント持ってかせないわよ!」

ファイヤーエンブレムもパワードスーツに業火を浴びせかける。その後で折り紙サイクロンが見切れている。

ヒーロー全員が到着したことにほっとした。

次々とヒーロー達はパワードスーツを倒し、コックピットをこじ開けるが、出てきたのはやはりパタパタと動くマッドベアばかりで人間は出てこなかった。

「あの女だ…!」
ドラゴンキッドは心当たりがあるようだった。
「さっき二人でこのマシンと女に襲われたんだ。 動くマッドベアを連れてた」

ぬいぐるみを操るネクストだろうか。

橋の亀裂が入った部分を繋ぎ直し立ち上がるとアニエスさんから通信が入った。

「みんな聞いて頂戴! 緊急事態よ!!」

緊急事態。
ノースゴールドのへリポートで爆破テロ、イーストゴールドとウエストブロンズでも爆破テロ。

そしてアッバス刑務所が襲われた。
次から次へと一体何なんだろう。


ただ事じゃない。
押し寄せる不安に唇をかんだ。

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