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23:57

スマホをポーチにしまい、タイガーさんを呼んだ。

「んあ? どした?」

「着替える前に肩出してください。治します」
「リツちゃん? そんなことできんの?」
「公にはしてませんが、怪我をしたまま現場に出るのはよくありません。秘密でお願いします」

運転席から斉藤さんが親指を立てていた。聞こえていたらしいが内緒にしていてくれるらしい。
「いやでも請求が来ると困「ボランティアです!日付が変わる前にさっさと脱いでください!」

シャツを脱いでもらい右肩に手を当てる。ネクスト能力を発動させれば青い光が私とタイガーさんを包んだ。

「おお……あったけぇのな」
「……」
……なんだろう、治りが悪い。
「……」
キースさんの時はこんなことないのに。
ほぼ治っている怪我ならほんの少しの後押しで固くなった傷を柔らかくし神経の興奮を抑えることが出来るのに。
頬の傷は何もしなくても大丈夫だろう。かさぶたのしたにまだ弱々しいが新しい皮膚が作られてきているのがわかった。

「すみません、なんだかうまく行きません。痛み止め代わり程度の治療しかできませんでした。」
「おお?でも全然楽になったぜ!ありがとな!」

タイガーさんは肩をさすりながら着替えのスペースへと消えて行った。

スマートホンに送られてきたブロックスブリッジの設計図を開く。
画面が小さく見づらい。画面の大きいタブレットか、原点回帰、できれば紙が望ましい。

爆発のあった場所にあたりをつけてそのあたりを記憶と照らし合わせる。

「あなたけが人ですから前面に出られても困るんです」
ヒーロースーツを身につけた二人が出てきた。

「は? あ、ああ……? いや大丈夫だからさっきリツちゃんにやってもらたし、ホラ絶好調……ィてっ!」
「タイガーさん!完治させたわけじゃないから無理しないでください!」

ブンブンと腕を振り回し、痛みがぶり返したようだ。
既に日付は変わっている。もうタイガーさんにネクスト能力を使う余裕はない。

『現場付近につくぞ!!!』

キーンとスピーカーのハウリングとともに斉藤さんの声が大音量が響いた。

『これ以上トランスポーターで近づけない!!!』
「OK斉藤さん。ダブルチェイサーで出る!」
「……無理はしないでくださいよ」
「無理でも何でもやるのがヒーローなんだよ! 行くぞバニー!」
タイガーさんはアイパッチをつけてヘルメットをかぶった。
「……リツさんは僕の後に。予備のヘルメットがあるのでつけてくださいね」
「はい。ありがとう」

この白いヘルメットは斉藤さんの予備だろうか。

「しっかりつかまっていてくださいね」

「……どこに……?」
バーナビー・ブルックスJr.のチェイサーは角が少ないツルッとしたフォルムだ。
「……しっかりつかまっていてください」
バーナビー・ブルックスJr.は私の手をつかみ自らの腰に手を置いた。
「…………はい」

エンジン音とともにトランスポーターのハッチが開いた。そのままダブルチェイサーが飛び出す。

「っ!」

ぎゅ、と手に力を込める。硬い装甲。スカイハイのヒーロースーツとは全然違う。

着地の振動をやり過ごすとあとは快適だった。
市販のバイクとアポロンメディア特製のバイクはこんなにも違うのか。

「スポンサーがついてるっていいなぁ」

つぶやいた言葉に返事は無かった。











現場に到着すればあたり一面煙がひどく被害の全容はわからなかった。

「ありがとうございましたバーナビーさん、タイガーさん!」

ダブルチェイサーからおりると一人の男が煙に咳き込みながらやってきた。

「大丈夫か!? もうすぐ救急車が来るからな!」
タイガーさんが声をかける。
「なっ、中に、犯人が!」

犯人

確かにそう聞こえた。

これは事故じゃない。テロだ。

「やっぱりテロか!」
「こんな状態なのに犯人が残っている?」

バーナビー・ブルックスJr.の言葉に私も違和感を覚えた。犯人ならばまっさきに安全な場所に避難するはずだ。
「入るぞ!」
「ちょっ!待って下さ……っ!」

ぶわりと煙が押し寄せた。風の中で薄目を開くとアポロンメディアの二人の目の前にパワードスーツがあらわれた。

「あれは!」
パーワードスーツの装甲に描かれた蛇のマーク。
どくりと心臓の音が大きくなった。

「あのマシン! やっぱり……ウロボロス!!!」

「おいバニー!おちつけ!」

激昂したバーナビー・ブルックスJr.はパワードスーツへと突っ込んで行った。
彼のことはタイガーさんに任せよう。

ーーそれよりも。

わたしは周囲を見渡した。
相変わらず煙がひどい。
パワードスーツが煙にまぎれていたように、他のウロボロスも煙にまぎれていてもおかしくない。

腰のポーチに手を伸ばしチョークを取り出す。が、戻して小型のナイフを手首に仕込む。

チョークで線を引いて、なんて悠長なことはしてられない。

今は橋の安全と自分の身の安全だ。
ウロボロスの目の前で能力を使う。決して私のネクスト能力の本質を悟られてはいけない。

邪魔にならないように端へと移動し、自分の体ごと煙に隠して能力を発動させる。

ふと、ジェットパックの音が聞こえた。

能力を発動させたまま上を見ると、煙の切れ間からスカイハイの姿が見えた。

まずい!!

スカイハイが構える。

途端

「やばっ」
煙がスカイハイの風に吹き付けられかき消えた。

けれども「今」能力を止めるわけには行かない。
煙がなくなり隠れ蓑がきえた。

サラサラと砂のようになったアスファルトが元あった場所に定着し、歪んだ鉄骨もまた視認が難しい細かい粒子になり元の形に戻ってていく。
……分解の工程を見られた。

そして。

煙の消えた橋の上には何体ものパワードスーツがいた。


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