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パオリンちゃんとカリーナ、サムくんはバーナビー・ブルックスJr.のベッドで寝てしまった。
流石に私まで入り込むスペースはなく、リビングでタイガーさんとテレビを見ていた。
大きなスクリーンにはネクスト登録法案について報道しており、ネクストの立場からすればあまりいい気持ちのする内容ではなかった。
「あの顔面手形野郎がいなけりゃここまでのことにならなかったのに」
「顔面手形?」
「あー、ほらアイツのマスク手形みたいな模様だろ」
「ルナティック、ですか」
そうか手形か。確かにそう見えなくもない。
マグカップをトレイに載せてバーナビー・ブルックスJr.が戻ってきた。
「おう、どうだった」
「よく寝てましたよ。 にしても、嫌われましたね」
「ああ、ブルーローズ? 難しいんだろあの年頃は。
うちのチビもあんなんなるのかねえ……」
チビ……九歳の女の子は意外と大人びてるんだけどなぁ。
大人が思うほど、子供はお子様じゃない。
「あれ?コーヒー? ビールないのビール」
「飲んでいいんですか? まだ肩ひどいんでしょう」
「え? タイガーさん怪我してるんですか?」
気付かなかった。
「ヘーキだって! もう良くなって……」
「右肩。なるべく使わないようにしてるじゃないですか」
「!」
さすが相棒。相方のことはよく気がつくんだね。
バーナビー・ブルックスJr.は私の隣に腰を下ろした。
「え? 気づいてたの?」
「僕のせいですしね、その怪我」
……私はこれを聞いていて良いのだろうか。
なんとなく話に入りづらくてコーヒーに口をつける。
「珍しく殊勝な事言うじゃん」
「事実を言ったまでです。ひどくなってもらっても困りますし」
私はスマホで時間を見る。
23:30
日付が変わるまでもう少し。
日付が変わる直前なら能力を使って治そうか。
そういえば、この人たちには人体に対して使えることを言っていない。
「いやホント良くなってるんだって」
幸い休業中にメディカルセンターからヒーロー全員の体の詳しい資料を貰って勉強している。
タイガーさんの数値やエクスレイ、CTなどを記憶の片隅から引っ張り出す。
「あの倉庫の男達の足取りも一切つかめない……」
バーナビー・ブルックスJr.の言葉に意識が引き戻された。
倉庫。あの日、ルナティックが。ウロボロスが。
バーナビー・ブルックスJr.は伏せていた写真立てを手に取りタイガーさんに手渡した。
「僕は、見たんです」
三人の家族写真。
「誰かが、両親を打つところを。 顔を見たはずなんだ。犯人の……でも……」
「……」
タイガーさんはじっとその写真を見ている。
「思い出せない……手の甲にあったウロボロスのマークしか……」
悔しそうにバーナビー・ブルックスJr.は顔を歪めた。
悔しいだろう。犯人を見たのは自分だけで、手がかりは自分の記憶だけなのにそれが思い出せないなんて。
「いい写真だな」
「……」
いい写真、か。
タイガーさんはその写真に何を見出したのだろう。
「!!」
突如大きな爆発音が響いた。
「なんだっ!?」
窓から外を見れば橋からもうもうと黒煙が上がっていた。
「何? 何があったの?」
パオリンちゃんとカリーナが駆け込んできた。
PDAがけたたましく鳴り、繋げばアニエスさんからだった。やはり何かがあったらしい。
「皆事件よ! ブロックスブリッジでなにか爆発があったらしいの! 怪我人が出てるみたい。至急現場に向かって!」
時計を見ればまだ23:45
タイガーさんの怪我を直してブロックスブリッジに行くべきか……
「リツ!あなたもよ!橋が落ちないようにして!」
「了解です!」
タイガーさんの肩はギリギリまで様子を見よう。
「ボクらも行こう!」
「市長のお子さんもいる。お二人は朝までここで待機してください」
「二人でサムをジャスティスタワーへ連れて行ってから出動するわ!」
「しかし……こんな時間に女の子二人で……」
「バニー」
気遣うバーナビー・ブルックスJr.の言葉をタイガーさんが止めた。
「こう見えてこいつらヒーローなんだぜ?」
二人の肩を抱いてウインクをした。
「な?」
カリーナの顔が真っ赤になってしまった。
……ああ、なるほど。
なんとなく微笑ましくて頬がゆるみそうになる。が、カリーナに見られたら怒られそうなのでこらえる。
「タイガーさん、今日はバイクがないので現場までご一緒しても?」
「ああいいぜ! じゃ、先行ってっから! 気をつけろよ」
「うん」
パオリンちゃんとカリーナにサムくんを頼んで、アポロンメディアのふたりとマンションから出た。
ちょうどトランスポーターがしたに到着し、そのまま乗り込んだ。
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