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▼ 37

「おっ! すっかり懐いてんなー」

幸いヒーローの出動要請が出るような事件も起こらず、夕方にはアポロンメディアの二人組がやってきた。

「お疲れ様です。今日はずっとご機嫌ですよ」

おむつやミルクでぐずることはあっても大泣きすることはなく、ネクスト能力でめちゃくちゃにされることもなくなんとか1日が終わりそうだ。

「カリーナとパオリンちゃんが来たら交代ですのでよろしくお願いします」
「だっ! リツちゃんバニーんち来ねえの!?」
「え? てっきり交代だとばかり……」
「…………僕としては世話に慣れているリツさんも来ていただけると助かります」

なんということだ。
同じベッドに赤ちゃんがいると寝返りで潰してしまうのではないか、ドアの向こうにキースの存在を意識して、と様々な理由が重なりちょっとばかし寝不足で、今日はゆっくり眠れるかもと思っていたのに。

「あー……ハイ。 でも着替え取りに戻ってもいいですか……」

安息の眠りよさらば。









「わあひろーい!」

カリーナとパオリンはその広さにはしゃいでいる。

「ちょっと!勝手に開けないでください!」


部屋はその人の人柄があらわれる。
バーナビー・ブルックスJr.の部屋はがらんとしていて家具やものがほとんど無かった。

ゴールドステージの高級マンション(億ションかもしれない)に住んでいるとは。バーナビー・ブルックスJr.の世間のイメージ通りというかなんというか。

パオリンちゃんがサムくんに絵本を読んであげたりと面倒を見てくれている。サムくんも泣かずにパオリンちゃんになついているし、今日は楽ができるかもしれない。

「あ、帽子ぬげそう」

パオリンちゃんがサムくんの帽子をなおす。
「よし」
「かわいいね、帽子」
「え? でも男の子なんだよ? 花柄なんて……」
「いいじゃんにあってるよ」
「……」

確かに男の子には少し可愛すぎる柄かもしれない。けれども似合っているように感じるのはふくふくとした赤ちゃん時代の特権なのかもしれない。

パおりんちゃんは少し考えこみ、ぽそりと似合わないよ、とつぶやいた。

「ふ、ふえっ ふぎゃぁあああっ!ふぎゃぁあああっ!」
「ご、ごめん!キミに言ったんじゃないよ!」

サムくんは泣き出してしまった。その泣き声とともにおもちゃやマグカップが浮き上がる。

「ちょっ! 困りますよ!」

バーナビー・ブルックスJr.の声はサムくんに届かない。なおも激しさを増すサムくんのネクスト能力でサムくん自身も浮き上がり、様々なものが勢いよく飛び交う。

「!」

チェアごと浮き上がったタイガーさんはすぐ近くまで飛んできた写真立てに手を伸ばした。
が、すんでのところでバーナビー・ブルックスJr.が写真立てをつかまえた。

「つかまえた!」

カリーナがサムくんを捕まえた。
「あっ おむつだ!」
「リツさん! おむつどうすればいいのー!?」

「はーい! 教えるから覚えてね!」

宙を舞うおむつとおしりふきを取ろうとジャンプするが届かない。
「……」

「……どうぞ」
バーナビー・ブルックスJr.が取ってくれた。
ジャンプせずとも届く彼の長身が羨ましい。
「あ……ありがとう」

じ、と彼の視線が私に注がれた。

「? あの、なにか?」
「いえ、なんでもありません」
「?」













「そう仕事……今日は帰れない。ホントだよ!会社に聞いてみてよ!」

カリーナは苛立ちため息をつきながら携帯を閉じた。
「親御さんか?」
「そうだけど」
「あんな言い方すんなよ。心配してるんだろ?」
「私の事信用してないんだよ! 全然わかってくれてない!」

ああ、そうか。
親の立場のタイガーさんと子供の立場のカリーナでは感じることが違うのか。
「……そうだよ。親なんて勝手な決めつけと押しつけで!」

パオリンちゃんはうつむき気味に言った。
彼女も親との間に何かあるのかもしれない。
「それはお前らのこと思って言ってんだぞっ 親の気持ちにもなってみろ」
「こっちの気持ちにもなってよ!」

わあ、タイガーさんやめてー。火に油を注がないでー!


シャカシャカと哺乳瓶を振り温度を下げながら冷や汗をかく。
タイガーさんの娘さんもカリーナみたいに怒らせてしまっているのではないかと思案する。
親からの一方的な心配をくみ取れなんて、思春期の子には無理な話だというのに。

「はい、パオリンちゃんおねがい」
ちょうどいい温度になったミルクを渡す。

「これ……市長の奥さんいつもひとりでやってるのかなぁ」
「大変だね」

「お前らのカーチャンだってそうだったんだぞ。感謝しろよ」

その言葉にパオリンちゃんとカリーナは顔を見合わせた。

感謝、か。
そのうち、おばさんに顔みせに行こうかな。




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