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▼ 34

スカイハイを見送り、私はそのまま床にへたりこんだ。

ゆっくりと息を吐き出す。

ーーやっぱりおじさんに引き取られる前からネクスト能力に目覚めていたんだ……

電話での私の問いにユーリさんは少し考えてから答えた。

『詳しくはわかりませんが、リツがうちに来た時には既にネクスト能力を使えると説明された記憶があります』

父と母はどうやって私の能力をウロボロスから隠したのだろう。
やっぱり、知られているんじゃないだろうか。

何度も何度も考えては打ち消した。

復帰すると決めたじゃないか。


壊すことしか出来なかった子供の頃。
父が出来た再構築も出来るのではないかと何度も試して失敗して、いろんなものを壊してはおばさんに叱られたっけ。

じっと両の手のひらを見つめる。

修繕屋を名乗って働き始める時に直すだけ、とユーリさんと約束した事を頭の中で反芻する。


決して分解のままで止めてはいけない。
流れるように、一連の動作で直すこと。
一日三回までの制限を超えないこと。
自分の正義を貫くこと。


車が銀行に突っ込んだ時だって、ワイルドタイガーがものを壊した時だって、倒壊しそうな建屋を支えなくちゃいけなかったときも。


大丈夫、今までちゃんと約束を守ってやってきたじゃないか。













「リツ戻ったよ」


逸る気持ちを抑えいつも通りの顔をつくろう。
おかえりなさい、と笑って出迎えてくれたリツに頬が緩みそうになる。

「何事も無かったかい?」

「ええ。サムくんよく寝てますよ。
お腹空きましたよね、今ごはん温め直しますね」


ニコリと笑いリツはキッチンへと消えた。

帰れば明かりのついている家、赤ん坊がいて温かい食事を出してくれる人人がいて。

今日たった一夜のことといえど、じんわりと胸に広がる暖かさに家庭を持つということはこういう事だろうか、と思案する。

もちろん幸せなことだけではなく苦労だってあるだろうけれど、それを乗り越えてなおその幸福はあまりにも魅力的だ。

相手がリツならば尚更。

そこまで考えて苦笑する。
まだまだそんな関係とは程遠いというのに。

でも、もし。

不確定な未来にリツがいてくれたならば、きっと私は世界で一番の幸せ者だろう。

「すみません、引っ越したばかりでほとんど食材がなくてこんなものしか用意できないんですけど……」

トレイに乗せられたチャーハンとスープ。

「美味しそうだね!」

「お口に合うといいんですけど」

いただきます、と以前ワイルドくんに教わった挨拶をして手をつける。

「美味しいよ、リツ」

感想を告げればリツはほっとしたように笑い、食べ始めた。

「良かった。今まで家族にしか作ったことがないから……」

家族。
聞いてみてもいいのだろうか。

「リツの家族はどんな人なんだい?」

一瞬、彼女の視線がさまよった。
が、すぐに笑顔で答える。

「父と母は幼い頃になくしました。
一時は施設にいたみたいですがあまり覚えていなくて……その後ユーリさんのご両親に引き取られたんです」

リツはスプーンを置くとサムくんが寝ている部屋から写真を持ってきた。

テーブルに置かれた写真は幼い頃のリツは父親に肩車され、その隣に兄だろうか。少年がいて、そのまた隣に母親が立っている。
みんな幸せそうに笑っていた。

「おじさんは……正義感が強くてとてもしっかりした人でした。
ネクストだった私がものを壊しても豪快に笑って……
おばさんはいつもニコニコしていて、お料理がとっても美味しくて。
よく一緒にクッキーを作ったりしましたよ。
おじさんが事故で亡くなってからは……そういう事はしなくなっちゃったんですけどね」

リツは目を伏せた。
実の両親の死と、義理の父親の死か。
リツの事をもっとよく知りたいと思い軽々しく聞いてしまったがよかったのだろうか。

「ユーリさんの事は……知ってますよね。司法局で裁判官をしてます。今年からヒーロー管理官ですし、以前エレベーターで会いましたし……」

目を伏せたままリツは続ける。

「ネクスト能力がうまくコントロール出来なくて、同年代の友達はほとんどいなかったんです。
兄はそんな私といつも一緒にいてくれました。
兄も私も、おじさんから……」

おじさんから。
そう言いかけてリツは口をつぐんでしまった。

「あ、えっと何でもないです。
みんないい人で大好きですよ。引き取られたのがおじさんとおばさんのところで良かったと思ってます」

そう言って家族の話は打ち切られた。
それからもリツは私のことを聞いたりせず他愛のないことばかりを話す。

これ以上はきっと触れない方が良いのだろう。








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