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▼ 空高く

単純に、空が飛べたらいいなーって。
ただそれだけ。

ただそれだけで私は今屋上のフェンスを乗り越えた。

嫌なことがあるのはいつものこと。
むしろ嫌なことが起こらない日常を過ごせる人なんて世界に何人いるのだろう。


空高く突き抜けるような雲一つない真っ青で。何も無い虚空に両手を伸ばし目を閉じた。

「どうしたんだい」

「!」

手を、つかまれた。

ゆっくり目を開ければそこにはシュテルンビルトでは知らない者のいないヒーローがいた。

「こんなに晴れていると気持ちいいね。そうは思わないかい?」

どうした、とも、何があった、とも何も聞かない。

「下まで送ろう」

ヘルメットのせいで彼の表情は分からない。まあ、彼の素顔もわからないけれど。

ボーッと彼のヘルメットを見つめていると、こてん、と彼は首をかしげた。

「私のエスコートでは不満かな?」

まさか。

「素敵な申し出ありがとう。嬉しいわ」

そう言うと彼は私を抱き上げてゆっくりと降下していく。

「ねえ、空が飛べるのってどんな気分?」

「最高の気分さ。こんなに青い空なら言うことなしに最高だとも」

きっと今彼は笑顔に違いない。声が心底楽しそうだ。

「私も飛べたらいいのに。わたしもヒーローみたいなすごいネクストだったらな」

こんな事を言ったら困るわよね。

「そうだね。人はみんな出来ることが同じとは限らないから。
私は私に出来ることを精一杯する。
君も君に出来ることをすればいい」

そう言って彼は地上に降り立つとまたゆっくりとした動作で私をおろした。

私に出来ること。

「ありがとうねスカイハイ」

お礼を告げると彼は敬礼のようなものをして勢いよく飛び立った。

青い空に白いヒーロースーツはとても良く似合う。

帰りに彼のカードでも買って帰ろうかしら。





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