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▼ 31

アニエスさんの車でスカイハイと一緒に引っ越したばかりの自宅に帰る。

念のためユーリさんにも連絡を入れた。
赤ちゃんを預かることになり、その赤ちゃんのボディガードとしてスカイハイも一緒、
明日はバーナビー・ブルックスJr.の家で面倒を見ることになったとメールを入れた。

ミルクやおもちゃなどのサムくん育児セットを山のように貰い、じゃあ宜しく、とアニエスさんは行ってしまった。

しん、と静かになり、あらためてスカイハイと自分の家で二人きり(サムくんもいるけれど)だと思うとなんだか緊張する。

「すまない、本当は私の家に招待できたら良かったのだが」

サムくんが泣いた時、スカイハイの飼い犬ジョンが危険だと判断し私の家にしてもらった。
猫ならば高いところから着地出来るが犬はそうもいかない。

「安全第一ですから」

引っ越したばかりでまだものも少ない。防音性もセキュリティもバッチリだし、サムくんが泣いても大丈夫だろう。

サムくんはクーハンの中でぐっすり眠っている。

「リツの家はシルバーだったんだね」

「引っ越したんです。前のところも良かっ……たんですけどね」

しまった。
スカイハイのフィギュアだらけ!

寝室にはスカイハイのフィギュアが沢山ある。
もちろんほかのヒーローのものもあるが、スカイハイの多さは誰が見ても分かる。

「そうか。これで次からリツを送る時に困らないよ」

次から?

「ほら、スケートリンクビルの時、リツの家の場所を聞けなくて送ってあげられなかっただろう?」

「ええ、そう言えばそんなこともありましたね……あの時は寝ちゃってすみませんでした」

どうしよう。
今はまだいい。
寝る前までになんとか寝室のフィギュアをどうにかしなければ。

「次も似たようなことがあれば直接リツの家に送れるからね」

ヒーロースーツのスカイハイに送り届けられたら私が引っ越した意味がなくなりそうだ。
ご近所さんからの視線独り占めは困る。

とりあえずアニエスさんからの育児セットをリビングに運び、横目で寝室の扉を確認する。

ーー良かった、閉まってた。

もし開いていた時は笑いながらごまかし光の速さで扉を締めるしかなかった。

スカイハイとともにアニエスさんからの育児セットの荷ときをし、その多さに思わず苦笑いが漏れる。

「子供の世話にはこんなに必要なのかい?」

「たぶん……多すぎるくらいかと」

子育てをしたことはないが、子守くらいならした事がある。
けれどもこんなに必要ではなかった気がする。
いや、市長の子供だし富裕層ならばこれくらいは普通なのかもしれない。

明日にはバーナビーさんのお宅に移動させなければいけないし、最低限必要なものを選び配置していく。

ふぇ、とサムくんがぐずり出した。

出したばかりのおもちゃを握らせる。

「今ミルク作ってくるからねーまっててねー」

「私にも作り方を教えてくれるかい?」










おすわりをさせてサムくんに哺乳瓶を渡すと、上手に抱えて飲んでくれた。

「自分で飲めるんだね」

「ええ、プラスチックの軽いボトルなのでサムくんくらいの月齢なら大丈夫ですよ」

「リツは詳しいんだね。弟か妹さんがいるのかい?」

「……兄が一人いるだけですよ。
近所の子の面倒を見たりしていたのでこれくらいはなんとか。
流石に新生児を任されたら困りますけど」

私に血の繋がりのある人はいない。
もちろん探せば遠い親戚くらいは見つかるかもしれないが、今さらどうこうするつもりは無い。


ミルクを飲み終えたサムくんは機嫌よくおもちゃで遊んでいる。
起きたばかりだけれど、そろそろ寝かしつけた方がいいのかも知れない。
市長夫妻の元にサムくんを帰した時
生活リズムがめちゃくちゃでは苦情が来かねない。

そういえば私もスカイハイもまだ夕飯を食べていない。

世のお母さん達はどんなタイムスケジュールでこなしているんだろう。

サムくんの哺乳瓶を消毒するついでに冷蔵庫をのぞく。引っ越したばかりでまだ食材はあまり入ってない。

……冷凍野菜、シーフードとベーコンしかない。
そうだ、今日は帰りに買い物しようと思っていたんだ。

とりあえずお米をといで炊飯器にセットする。

チャーハンとスープくらいならなんとかなりそうだ。

「すみません、サムくんをお風呂に入れて寝かしつけてからご飯でも大丈夫ですか?」

「大丈夫だとも!なにか手伝うことはあるかい?」

手伝うこと。

「そうだ、私がサムくんをお風呂に入れよう」

「!」

大丈夫だろうか。
ものすごく心配だ。




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