二人、青い空をひらいて・7






なまえはその場に立ち止まった。
顔に、大粒の雨が勢い良く当たる。その雨と滲んだ目を、なまえは右袖で大きく拭った。
目を凝らして良く見たそれは、鮮やかなコバルト地に雲の模様を散りばめた、一本の傘だった。まるで雨の後の晴れ間を切り取ったような、青と真白。
斜めに打ち付ける雨が当たらぬよう、ギリギリまで前に傾けられた青空。それが、確実にこちらに歩み寄ってくる。
「・・・・・・コ」
雨の校庭を渡って来るコバルトの傘に、真っ直ぐ向き合ったなまえ。傾け入れられた傘の中にいつもの笑顔を見つけた。


「遅くなってゴメンね、なまえ。」


なまえはふるふると頭を振った。
髪の毛から頬につう、と冷たく流れる一筋の雨。そして。
瞬きと共に、つう、と頬に暖かい一筋。


「・・・ココ。」

紐解いた唇の代わりに、なまえはギュッとスカートを握り締めた。



ココはポケットから小さなタオルを出すと、濡れて額に貼りついたなまえの前髪をそっと拭った。
そのタオルはなまえにとっては良く知った柄だった。だってココの誕生日にプレゼントしたんだから。ココ、ずっと使ってくれてたんだ。ちょっと派手じゃないかって困ってたのに、変なの。
なまえの口元にフっと笑みが浮かぶ。その口元から頬にかけて感じる、使いこなされた柔らかい肌触り。心地よさに混じる微かな甘い香り。それはなまえがココと一緒に選んだ洗剤の香りだった。
「早く拭かないと、風邪をひくよ」
「・・・うん。」
なまえはタオルに額を押し付けた。
前の家で使っていた物と同じ香り。そうじゃないと嫌だとごねたなまえに、ココは嫌な顔一つせず何軒も付き合った。結局同じ物は手に入らなかったけれど、妥協ではなく『これが良い』と二人で納得出来る物を見つけた。
そう言えばあの日が・・・この国で、ココと二人で生活を始める、最初の一歩だったんだ。なまえはそのタオルを、持っているココの右手ごとぎゅうっと握った。そうして、その小さなタオルに顔を沈めた。

そんななまえの眼に映った、もう一つの物。タオルを差し出した手とは逆、傘を差しているココの手首にかかっているのは・・・一回り小さい、もう一つの青空。
「・・・ありがとう」
なまえは両手でそれをしっかりと受け取った。







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