王子はその髪を翻して 15





つーかよ?
王子様ってのはよ?
白い馬に乗って、マントを翻して。
颯爽と風を切って、平野を駆ける。
悪い魔女やドラゴンに、華麗に立ち向かう。
そんな、強くて、かっこ良くて、美しい、そういうのが所謂、『王子様』だ。

どう考えても『王子様』は。薄汚れたロバに乗ってるような、日よけのマントで怪しい柄のシャツを隠してるような、そんな人物じゃねーよな。
ロバでポクポク街を出たかと思ったら、いきなりマッハジェット機に乗り換えて空を飛んだりさ?
でもって、ギャン泣きしたリンにオロオロしたり、ポカポカ叩かれて涙目になったりよ?
そんな人物である訳ねーよな。
どう間違っても、サングラスに年中アロハシャツを着てて、白髪交じりの髪の毛で、長い口ひげをピコピコ動かせるオッサンだなんて、口が裂けても言えねーよな。


だからよ?
オレがやっぱり王子様でないといけねーよな?
乗ってるのは白い馬じゃねーけどよ。ま、フツーじゃ到底乗れねーような生き物に乗ってるしよ。
どっかの毒みたいにダサいマントなんざ絶対にお断りだけどよ。代わりと言っちゃなんだがキューティクルMAXの美髪をなびかせてんだからよ。
でもって、素人じゃ到底倒せない猛獣も、今のオレには華麗且つ美しく倒せるし。
強くて、かっこ良くて、美しい、そういう所謂、『王子様』。
王子様はこうでなくちゃいけねーんだってずっと思ってた『王子様』。
オレは今まさに文句無しでそうであるんだし。



「ねぇ、お兄ちゃんは、王子様なの?」


そんな言葉を掛けられたもんだから、つい。
つい、昔の事を思い出しちまった。


「それとも、神様?だからこんな美味しい物くれるの?」
「ちげーし。神様じゃねーし」
オレは声を掛けてきた子にもう一つ、プレゼントを渡した。
「レは、ずっとずっと遠くにあるグルメ国の、王子なんだし。」
「本当に?!」
「おぅ。だから、ちゃんと食べろよ。んで絶対に挫けるなよ。来年もその次も来るからな」
「うん!ありがとう王子様!」
オレは頷いた。
恵まれない国の、子供たちに。
親のいない子供たちに。
平和を知らない子供たちに。
夢を見られない子供たちに。
サンタなんて聞いた事もない子供達に。
明日への『希望』と言う名の糧を、両手と髪で持ち上げた。
「貰ってないやついないか?まだまだたくさんあるぞ!」




でもよ、あの時のオレにはさ。あんなファンキーなオッサンが、そう見えてしまったんだ。
ま、仕方ねーよな。眼が赤くなくなった最初の日に見たんだからよ。
見間違えもするよな。してもしょーがねーよな。
……え?何に見えたかって?


ガラスの靴の代わりに、おかしな食材でオレらを探し回ってさ。
オレたちを外の世界に連れ出してくれた、王子様に、だ。



ハハハ。笑っちまうよな。






→あとがき




▼Topへ  ▼戻る


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -