王子はその髪を翻して 12





「やっぱり神様はいるんだよ!」
オレたちの姿を見て、オバサンは心底安心したかのように手を合わせて甲高い声で笑った。
「それにチャンスもやって来たよ!」
チャンス?何の?
聞くよりも早く、オバサンがオレに捲くし立てた。
「アンタ、アタシと一緒に外に出られるかい?」
オレは首を横に振った。
「何で!?」
「目が開かないし」
「まさか、見えないのかい?!」
頷いたオレを見て、オバサンは額に手を押し付けた。
「ならあいつらに来てもらえば良いんだよ!部屋を暗くしてればごまかせるだろうよ」
オジサンはそう言って家を飛び出した。
その後姿を見送った後、オバサンはオレの耳元に口を寄せて、小さな声で言った。
「良いかい?これから人が来る。その人が持っている物が何かを答えるんだよ。当てたら賞金が貰えるんだ!」
「賞金って?」
「お金だよ、お金!ささ、早く。あたしゃまだ出てない答えを考えないと…」
そう言うとオバサンはブツブツと一人で呟き出した。
オレはそんなオバサンを余所に、目をゴシゴシと擦った。
薄っすらとしか開けられない瞼。それに明かりの点いていない部屋なのに、凄く眩しくて、何もかもがぼんやりと見えた。
オレは開かない目にイライラして、更にゴシゴシと擦った。
「済まねぇな、オレんちの息子は身体が弱くてよ」
オジサンの大声が外から聞こえた。
「あぁもう戻ってきた!アンタは塩、チビは砂糖で良いよ砂糖で!砂糖って言うんだよ?分かったね?!アタシが言ったってナイショにしなよ?!」
オバサンはリンの顔に砂糖砂糖と繰り返した。
「それでは、お邪魔致します」
家に若い男の人が二人入って来た。こんにちは。とオレに向かって丁寧に挨拶をした。
オレは目を擦りながら同じように頭を下げた。
そうして片方の人が、ケースから取り出した物を自分の胸の前に差し出した。
「これです」
リンゴだった。…ほんのり赤い。
後ろから小さな声でリンゴにしか見えないよ?と呟く声が聞こえた。
「キミ、何だと思う?」
オレはじっと目を凝らした。
見た事が有った。本当に、つい最近。
「リンゴだし。」
「バカ!塩って言えって言ったじゃな、」
口を押さえたオバサンをチラと見て、男の人は優しい声で「ゴメンね、どっちも違うからね」と言った。
オレはそんな優しい男の人に、薄目をパチパチさせながら言った。
「リンゴの形した、肉だし」
「…今なんて?」
「だから、肉だし。そのまま食べられるし」
「アンタ何言って……!!」
オバサンの金切り声を遮って、もう一人の男の人が胸元から出した何かに向かって「見つけました!」と叫んだ。
「え?今なんて?見つけた?え?え?!」
「肉?!肉なのか?何で分かった?いやそんなのどうでも良い!正解か?おい、正解なんだな?!」
オロオロしているオバサンとオレの肩を掴んだままバカみたいに揺さぶるオジサンを余所に、外が一気に騒々しくなった。
男の人がオジサンの手をどけてくれて、オレの肩をそっと引き寄せた。
オレに向かって「何日も探してましたよ」と言った。
「誰が?王子様が?」
「王子様?」
「…『シンデレラ』」
そう言ったオレに、男の人はあぁ、と納得した。
「確かに、会長はおっしゃってました。『お妃探し』とね」
オレは話をしながらも、目を必死で擦っていた。
漸くまともに目が開いてきた。うん。ちゃんと見えるぞ。良かった、溶けてなかった。
「おにーたん」
気がつくと少し離れた場所で、リンが不安そうにこっちを見ていた。
「おいで、リン」
そう言うと同時にオレに駆け寄ってきたリン。そのリンの顔も、オレにはハッキリ見えた。
だけど、リンの不思議そうで嬉しそうな顔に、オレは一瞬戸惑った。
「どした?リン?」
「おにーたん。お目々」
「目?」
「うん。お空の色!」








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