メビウスの指輪・6 2





「も〜!トリコも来てるなら連絡するし〜!」
トリコに向かって、リンが甘ったるい声と笑顔を振り撒いている。
3人の緊迫した空気を払拭したのは、その場にやって来たリンだった。
「…まだ仕事中だと思ってたからよ」
「ちょうど休憩時間だし!ジュース買おうと思って降りたら、蒼衣たちに偶然会ったんだし。」
ねー?と肩越しに笑うリンの後ろには、蒼衣がペットボトルを抱えながら……穏やかに笑って立っていた。
「お久しぶりです、トリコさん。サニーさんも」
まるで何事も無かったかのように普通に挨拶をしてきた蒼衣に、トリコは戸惑いながらも言葉を返した。
次いで蒼衣は、ココの様子を少し心配そうに窺った。
「ココさん、だいぶ落ち着いた?顔色もさっきよりは良いかしら」
声を掛けながら蒼衣がココの隣に腰掛けた。それを見たリンもトリコの腕を引き、並んで座った。
「ココさん、温かいお茶にしましたよ」
「…ありがとう」
蒼衣がココに微笑む。ココは己の困惑を消して、普段どおりの表情を繕っていた。
「風に当てられるなんて、全く。らしくないな」
ココはトリコをチラと見る。そう言う事にしておくと、トリコはココと視線を合わす事で伝えた。
蒼衣の様子に気を回しつつも、それを表に出さず。
『普段どおり振舞う』事を察したサニーは、フゥ、と小さく息を吐くと、隣のテーブルから椅子を拝借した。

「蒼衣に会うの、あの日以来だし。元気だった?」
「元気よ。リンちゃんはどう?仕事は忙しいの?」
「超忙しいし!ハゲがなかなか休みくれなくてさ〜」
「それじゃ、所長が休みくれたら連絡してね」
「するする!また買い物行くし!」
リンが蒼衣といつもの調子で話している。
そのトーンの高さに、他の3人は一歩下がった状態で眺めていた。
いつも通りの風景だったが、トリコを始め3人は、目の前の蒼衣の様子を静かに窺っていた。
うたた寝から錯乱、意識の混濁。そして、普段どおりの覚醒。
今まで、このような事は一度も無かった。
蒼衣の記憶に得体の知れない何かが有るのか。
蒼衣の身体に潜む病が発作を起こしたのか。
それとも、ただの悪夢なのか。
そして、『助けに来てくれたんだ』と言う言葉。
………何から?
その答えをトリコは出せずにいた。

「あ、元気と言えば」
リンはサニーを見る。突然の1オクターブ下がった声。
「おにーちゃんも元気だった?」
「オマケっぽく言うなし!」
サニーの突っ込みにリンはツン、と横を向いた。
「元気そうで何よりだし?」
「おま、少しは心配しろっつーの!」
「勝手にいなくなる方が悪いし!」
「出掛けるって言ったろーが!」
「場所聞いてないし!」
相変わらずの兄弟の口論に、またか、とココが苦笑した。蒼衣もニコニコと笑っている。
トリコは蒼衣の様子を見つつも、ギャアギャアと騒々しい兄弟に溜め息をついた。
「リン。もちっと傷心の兄貴をいたわってやれ」
「傷心?!」
「ちょ!リコ!!」
「何か有ったんですか?」
蒼衣の声に顔を向けたサニーは、ココに寄り添う蒼衣に向かって一瞬泣きそうな表情を浮かべた。
「…んでもねーし」
「お兄ちゃん?」
トリコはテーブル越しのきょとんとした表情のココに口パクで「しつれん」と言った。
「え」
「失恋?!誰にだし?!」
「リコ!声出てたぞ!!」
「あれっ?スマン」
トリコに詰め寄ろうとするサニーをココはまぁまぁと宥めた。
「それも良い経験だよサニー?」
「まえが言うか?!その体勢で!!」
ココは蒼衣の背後から腕を回し、その手のひらでしっかりと蒼衣の手を包んでいる。
「うん?」
「…んでもねーし」
「お兄ちゃん…ドンマイ!」
「……んかムカつくし」
トリコの腕に手を回していたリンは、プイと横を向いたサニーの姿に慌てて飲み物を買いに行った。

「で、これからどうするし?」
戻って来ると同時にリンが皆に問いかけた。
「ウチはそろそろ仕事に戻らないとだけど……みんなは?もう帰っちゃう?」
蒼衣はココの顔を見た。気のせいだろうか。少し頬が赤い。
「せっかく来たんだし、検査でもしてから帰れば良んじゃね?」
そう言ったのはサニーだった。
「ココも久しく検査してないんだしよ?」
「……そう、するかな」
ココは蒼衣に頷いた。
「ホント?!じゃあ蒼衣はウチの部屋に泊まるし!」
蒼衣は一瞬きょとんとしたが、リンの『パジャマあるし』を聞いてすぐに笑い返した。
「リンちゃん、ボクが今晩泊まれる部屋は有るかな?」
「ハゲに聞いてみる!でも無かったら…?」
「その時はキッスの羽根にもぐるよ」
「レたちは?」
「お兄ちゃんたちは…野宿?」
「ちょ、ひどくね?!」
リンの当然と言った発言に、5人は誰からとも無く笑い合った。








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