メビウスの指輪・3 2




「蒼衣、早く入るし」
サニーが蒼衣を促す。蒼衣はおずおずと、一歩足を踏み入れた。
ココはそんな蒼衣の肩に優しく手を置いた。
蒼衣は部屋の中をぐるりと見回し、最後に自分の肩越しからココの顔を見上げた。
「ココ、さん」
「あ、もしかして気がついた?」
ココが悪戯をした子供のように言った。
「実は、蒼衣のいない間にちょっと模様替えをしたんだ」
ゆっくり蒼衣を中へ導きつつ、ココが笑う。
「いつ気がつくかなとドキドキしてたんだけど、あっという間だったね」
「何でまた模様替えなんか?」
トリコが不思議そうに尋ねた。
「それは…強いて言えば、一人の時間を持て余したからかな」

蒼衣は今朝まで、IGOにいた。
ココの最愛の存在である蒼衣は、その身体の『欠陥』から、定期的にIGO医療班の処置を受ける必要があった。
処置には数日から2週間ほどかかることがあり、その間、ココは自宅で彼女の帰りを待っていた。

「今回は、長かったからね」
「10日だったか?」
トリコが尋ねると「11日」とココが眉をひそめた。
「どれだけ首を伸ばせば良いのかと思っていた」
サニーがフン、と鼻を鳴らす。
「んなの、互いに気分転換と思え。毎日胸焼けMAXなベタベタなんだし」
「たまには離れたって良いし。ね、蒼衣?」
ココは苦笑した。
「困るな。いつもそこだけは兄妹仲良しで」

あの日の騒動で。
かつて蒼衣が治療を受けていた建物は今は無くなっていた。
現在蒼衣が滞在する建物は関係者以外の立ち入りを禁止し、皮肉な事にそこにココも含まれていた。
ココ宅からIGOまでは、トリコかサニーのどちらか、IGOに用事のある方が『ついでに』と迎えに来ていた。
IGOに滞在中はリンが蒼衣の側に付き、そこから戻る日は、『良い口実だし』とリンは必ず職場に休みを申請した。
そしてここまでの道すがら、『ちょっと寄り道』と称して今日のような買い物を…サニーが必ずボディガード兼荷物持ちをさせられて…そんな事を繰り返していた。

「でも良いな〜。ウチもそれくらい毎日ベタベタしたいし〜」
「、んなら柱にくっついてれば、良」
「柱?」
「リコんちのチョコの柱」
「ベタベタの意味が違うし!」
「、れで良!リコは舐める」
「なっ?!」
「舐めるか!」
「まさかの即答?!それも酷いし〜!」

蒼衣は彼らのやり取りをぼうっと眺めていた。
蒼衣の心は、目の前の光景に自分が溶け込めていない事を感じていた。
何かが違う。でもどこかは分からない。どうしてと聞かれても説明できない。でも、自分の知らない何か…不自然なものが混じっている。
蒼衣の不安そうな表情に、ココが顔を覗き込む。
「大丈夫?ちょっと混乱させちゃったかな」
蒼衣は俯いた。
「答えは、ね」
ココが言う。
「カーテン。淡い色に変えたんだ」
冬が終わったからね、と言われ、蒼衣はココの指差す方向を見た。
「……徐々に思い出すから、心配しないで」
ボクが側にいるから、と言うココの言葉に蒼衣は不思議なほど心が落ち着いた。
その感覚には、確かに覚えがあった。
知らず蒼衣の口元に笑みが浮かんでいた。
あぁ…確かに、覚えている。
冬になる前に厚手の物に変えたのは、私。
そう。いつも通り。リンちゃんとサニーさんの楽しい口論も、トリコさんの笑い声も、私の隣にいるココさんも、いつもこんな感じ。
確かに、私は、覚えている。
蒼衣は、自分の言葉を噛み締めた。
そして、ココに向かって言った。


「ただいま、です。ココさん」








▼Topへ  ▼戻る


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -