メビウスの指輪・3 3





「……研究者達は、何て言ってる?」
ココが口火を切った。

蒼衣達が戻って来てから数時間後、騒々しい中で夕食も済み、リンと蒼衣は二人で仲良くバスルームに消えた。
サニーが持って来た『美肌の素』をはじめ、数々のアイテムの効果を知るには、後一時間は軽くかかるだろう。

「……あの副作用は無くならね」
サニーがぶっきらぼうに答えた。
「……そうか」
ココは溜め息をついた。
「どうしても叶えたいものではなかったんだが。…少なくとも、ボクは」

かつての治療の最中。
ココは蒼衣の身体が目に見えて回復する姿を見て、いつしか淡い願いを抱くようになっていた。
それは、気が早いと笑われても可笑しくないものだったが。
不思議なことに、蒼衣も同じ事を考えていた。そしてココが口に出すより前に、医療班の一人にその願いを伝えていた。
こんな夢みたいなこと。でも、皆さんになら叶えてもらえそうで。
そう言って笑った彼女の願い。それは、医療・研究班にとっても、願っても無いものだった。

「それが有ろうが無かろうが、今の蒼衣には欠かせない物なんだよ」
トリコの言葉に、サニーは頷いた。
「、れに、今日だって最初だけだし。段々思い出してきてる。…れで良んじゃね?」
二人の言葉に、ココは黙って二人に酒を一本出した。二つのグラスに静かにそれを注ぐ。
「もう一つ聞きたい。蒼衣は本当に、辛い思いをしていないだろうね?」

新しい場所でのIGO医療班の処置は、蒼衣が治療を始めた時と同じ物ではなかった。
あの日、蒼衣の身を襲った『重篤な発作』の後。
ココが目覚めた時、医療班は蒼衣の身体を発作『前』の状態に戻すのに懸命だった。
錯乱が治まらないココに、医療班をはじめトリコが言った言葉。
『時間はかかるが、必ず二人で帰れる』
だから待て。その言葉を、ココは受け入れた。
ココが敢えて過酷なリハビリを選んだのも、それが一つの理由だった。
結果、一年と言う時間はかかったが、ココは蒼衣と二人でIGOを後にする事ができた。
ただ、ココの身体が以前と同じでないように、蒼衣の身体にも以前よりも深刻な問題が生じていた。
そのため医療班は、今までに替わる新しい処置を施していた。
そして今後もその新しい処置を行う必要が有ると、ココは伝えられた。
何故なら、今までの治療ではあの『発作』の原因を知る事も、回避する事もできないからだった。
必要であるがためにココが承諾した処置は、皮肉な事に従来の治療には無かった『副作用』を抱えていた。
それは、記憶障害。
処置後の蒼衣は、その記憶が一部曖昧になってしまう。
すっぽり抜ける記憶も有れば、徐々に回復する記憶も有る。そしてそれは、程度も部分もその都度異なる。
ココはそう説明を受けていた。








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