あの日。 トリコがココに向けたノッキングガンは、ココの意識だけでなく神経の一部ももぎ取った。 ココが目覚めた時、その左足はココの物であるのにココの意思で動く事を忘れていた。 無理に動かそうとするとかなりの激痛を伴う左足に、その治療を任された医師たちの意見は二分した。 リハビリと切断。どちらかと言えば、リハビリよりも切断の必要性が上回った。 自身の足と見紛うほど高性能な義足、多少年月はかかるが再生させる方法も既に有ったからだった。 が、ココは切断を断固として認めず、辛いであろうリハビリを選び、その苦痛に一人耐えた。 IGOで一年のリハビリを終え、一人で生活できるまで回復した後、自宅に戻って来てからのココに二度目の春が訪れていた。 「もう少し楽に動かせるようになったら、一度くらいはお付き合いしてみようかな」 ココがシュガーポットを取り出して言う。 「何に?」 「我らの姫君の買い物に、だよ」 トリコはうへぇ、と顔を歪ませた。 「ココ、お前って物好きだな」 「そうかな?」 「かなり体力いるぜ」 「ただの買い物じゃないか」 「ココ、お前は知らねぇだろうが、あいつらちっともじっとしてないんだぜ。リスが食べ物集めるみたいにチョロチョロ…」 ココは『チョロチョロチョロチョロ……』を手と口で表現するトリコを見て噴き出した。 「何だそれ!可愛くないな」 「ほっとけよ!」 「まぁ実物はどちらも可愛いからね。そうだろ?」 トリコは軽く咳払いをした。 「照れるなよトリコ。似合わないから」 「ほっとけって!」 ココは笑いを噛み殺した。 「……トリコ、さっきの『チョロチョロ』もう一回」 「何で?」 「後で見せようと思って」 ココはおもむろに携帯をトリコに向けた。 「トリコ。早くやって」 「却下!誰に見せる気だよ!」 「勿論リンちゃんに。それから、」 ココはトリコをちら、と見た。 「あぁ、ゴメンゴメン。『リンちゃん』じゃなくて『トリコの彼女』って言った方が良かったかな?」 ← → |