メビウスの指輪・2 1




窓辺に飾られた花の香りがフワフワと部屋を舞う。
柔らかい陽射しに合わせてつい先日取り替えたばかりのカフェカーテンが、ココの期待通り揺らめきながら太陽と自身の色をかき混ぜ、その光をテーブルに落としていた。
肌が感じるか否かのかすかな微風に、ふとココの目が本から離れた。

「よぉ」
「おや、随分と早いじゃないか」
開きかけた本をぱたん、と閉じて声の主に語りかける。
「たった今、読もうとした所だったのに」
「そりゃナイスタイミングだったな。読み始めてたら止まらなかっただろ?」
まぁね。とココは素直に肯き、ソファーから腰を上げた。そのままゆっくりキッチンへ向かう。
「それにまだ早いと思ってたから、何も準備してないよ」
ココはケトルを火にかけながら、困ったように言った。
「思ったより早くケリがついたんだよ。これは戦利品。」
そう言うと同時に、テーブルに何か重い物が置かれる音がした。
「素晴らしいがティータイムには程遠い代物だ。さすが四天王一の食いしん坊ちゃんだな、」
トリコ。そう言ってココはクスっと笑った。



「さっきサニーがメール寄越して来たぜ」
「そろそろ着くって?」
ココはトリコの向かいの椅子に座り、紅茶を注いでいる。
「いや、逆。長引きそうだってさ。特にリンが、だと」
トリコはわざとらしい溜め息をついた。
「サニーには感謝しないとだよ。僕らの代わりに連れ出してくれるんだから」
「ホント、サニーは良くあの買い物に付き合えるよな」
「確かにトリコにはできないだろうな」
「あの長ったらしい物色がなければな〜」
「それは仕方が無いよ。世の女性達の大多数が、その物色をするがために生きているのさ」
「とんだ哲学講座だ」
「まぁ例外もあるけどね」
ココはふふ、と笑った。ティーポットから最後の一滴をカップに注ぎ込んで、あ、と気付く。
「そういえば、砂糖を出してなかったね」
ちょっと待ってて、と立ち上がろうとするココに、トリコは良いよわざわざ。と断る。
「気を遣うなよトリコ。らしくないぞ?」
そう返したココの第一歩は、酷くおぼつかないものだった。一歩、二歩。左足を少し引きずって進む。
「そうは言っても・・・痛むんだろ?無理するなよ」
「最初だけだよ。動き出せばそこそこ平気だ」








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