ナーオスに着くころには皆静かになっていた。
なぜかと言うことをあえて言うならば、朝食用にと取っておいた魚をコーダがこっそりと全部食べてしまったからだ。身体的には一食くらい抜いてもなんら問題はない。だがあると思っていた朝食がなく、そのままナーオスまで歩かなければならないのでは精神的にダメージがある。
ということで本当にろくなことをしないネズミである。

ちなみにその静けさは大聖堂に着くまで続いた。




「大聖堂には、秘密の図書館があります。そこへ参りましょう」


大聖堂前へ来た時、ようやくアンジュが口を開いた。

食べることが大好きなこの聖女様がよくここまで我慢していたと思う。心の中でひっそりと称賛する。逆にリカルドとエルマーナは町に入ってすぐに行商人から、なにやら美味しそうな匂いがするものを買っていたので陰口でも叩いておく。……はたから見れば親子だな、この二人は。


「どうして秘密なの?」
「天上からの天啓を書き記した文献があるの。こういう物は一般に公開しないのよ」


いつも通り皆の疑問にすぐ返答できるアンジュはすごいと素直に感心する。
ただルカからの質問の肝心なところには答えてはいない。上手くあしらわれている。


「情報、というものは独占してこそ価値が出る。『教会』という巨大な組織の権益を守るために必要な処置だったんだろうよ」
「ああ、そうだなリカルド氏よ。ただ情報と違って食料は独占しなくてもいいよなあ?」


腹が膨れて調子が出てきたのか、珍しくアンジュが素通りしたところを話していく。いつもならめんどくさげに聞いていて、話すのは肝心な時だけなのに調子がいいオッサンだ。

リカルドだけに聞こえるように耳打ちすると、見たのかとボソッと返事がきた。腹が減ると注意力が散漫になっていけないなと続けると、ついに返事は返ってこなくなった。


「そういう事です。じゃ、用意するからみんな待っててね」


何の用意をはじめるのかと思えば、アンジュはいきなり植え込みの近くに座りこんだ。

行動の意味が分からないので、もう一度よく見てみるとそこには隠し扉があった。この際図書館へと続く道が屋外にあって、本の保管環境的にはどうかなんて聞かないでおく。

いつまでもこのまま団体で図書館前にいるのも不審なので、こちらとしては早く中に入りたいのだが、アンジュがその動作の途中で止まってしまったままだ。


「…アンジュ、どうかしたか?」
「いえ、扉を開けるレバーに最近誰かが触ったようなホコリの跡があったんですが……」
「それは不審だな。まさか待ち伏せが?」
「わたし達がここに来る事なんて誰も事前に予想出来たとは思えません。多分警戒の必要はないでしょう」


だが相手に待ち伏せする気がなくとも鉢合わせになる可能性は多いにある。やっぱり警戒は必要だろう。


「この地下が図書館。暗いので気をつけて」



レグヌムの鍾乳洞に続いて、また地下。二度あることは三度あると言うが、流石にこれ以上地下に潜ることはないだろう。というかそう願いたい。


「うっわ〜、カビ臭っ」
「ほんと、本ばっかりだな。なんか落ち着かねーぜ」
「かくれんぼ、したなるなぁ」
「なるな、しかし。する以外、ないな!」
「止めはしないが、私は絶対に探さんからな」


入口を隠してまで保管する価値のある蔵書。ものすごく興味はあるが、一人抜け駆けしても録なことにならないのは、キノコの件でよく分かったので、今回は遠慮しておこう。


「はいはい、みんな聞いて」


各々が思い思いに呟いていたところに、アンジュの号令がかかる。


「それじゃあ手分けして調べるよ。まず地域別、年代別に本を選んで集めていく事が最初の作業ね」

「…………」
「…………」
「…………」


盛り上がっていた空気が一変、一気に氷点下まで下がった。特に馬鹿三人組の下がり具合は異常と言ってもいいくらいだ。


「ウチ、字ぃ読まれへんねんけんど」


内一人エルマーナのいきなりのビックリ発言に対して、真面目に捜し物をしたくないだけかと一瞬疑ったが、レグヌムで見た経緯からしてきっと嘘ではないだろう。


「オレ、本読めねーんだけど」
「ワタクシ、ナイフとフォーク以上の重たい物を持てませんの」


字が読めない。それは読める私達からすれば、想像も出来ないくらい大変なことだろう。なのに残りの馬鹿二人ときたら……。


「………じゃあ、こうする。スパーダ君はルカ君の助手。イリアとなまえはわたしの助手。エルはリカルドさんの手伝い」


バランスが良いようにみえて、実はアンバランスな組分けじゃないだろうかと思う。


「これでサボったり出来ないでしょ?はい、では開始よ」



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