雨が止むまでの間、きみは僕のもの






雨樋を叩く音で天気の変化に気づいた。問題に集中し過ぎていたせいだろうか、窓の外を見上げると青々としていたはずの空は灰色に濁っている。いつの間にこんなことになっていたのだろうか、全く気づかなかったというのもすこし情けない。

ふと隣の彼女が大丈夫だろうか、と心配の声を漏らした。それがつい十五分前に部室を出ていったメンバーに向けられていることは考えるまでもなく明らかだ。


「ねえ次郎くん、けっこう降ってきたけど……皆大丈夫かな?傘持ってないよね?」
「通り雨だろうし、そんなに心配しなくてもすぐに止むだろう」


たとえそうじゃなくても勉強をサボった罰とオレの邪魔をした罰だ。
心の声は決して表に出さず、いつものように返事をした。なまえはまだ不安そうだったが、部室をふらふらと一周するとまた元の席に戻っていく。

なまえと二人、勉強会をする約束を取り付けたまではよかったはずだった。
ただそれが成神にバレたせいで、話はサッカー部中に面白おかしく広がり、気づいたときには参加者が増え、開催地も見慣れた部室になっていた。
そうまでした奴らなのに、はじめて早々に勉強に飽き、ついに我慢がならなくなったのかコンビニに行くと連れ立って行ってしまったのだ。


「あいつらはいったい何をしに来たんだ」
「けど大人数で集まって何かするのって楽しいよね。私もこれが勉強じゃなかったらもっと盛り上がれるんだけど、テスト前じゃ仕方ないよね……」


どこか寂しげに見えるのは、自分だけが別の学校であることをまた気にしているのだろうか。今日も自分は雷門生だからと帝国での勉強会に難色を示していたーーだからこそ二人で図書館でやる予定だったのだが。


「なまえも帝国だったらよかったのにな」
「……え?」
「そうしたらいつも一緒できっと楽しいだろうに」


最近よく考えることだった。なんで同じ学校じゃないのだろうか、もしそうだったらどれだけ良かったのか。
そうなればきっと自分はもっと早くになまえと出会えたはずだ。他の奴よりも早くにーー


「けど……私は雷門でよかったって思うな」
「帝国は嫌か?」
「ううん、そうじゃないの。だって同じ学校だったら私なんて目立たないし口下手から、きっと次郎くんと仲良くなれてなかった。そんなの悲しすぎるもん」


だから私は雷門でよかった。控えめに笑うなまえに、一気に顔に熱が集まる。


「……殺し文句にも程があるだろ」
「え、私恥ずかしいこと言っちゃった?忘れて、忘れて!」


慌てたように言い募るが、あんな文句一生頭から消えそうにない。本人は無自覚らしいが、あんな台詞どこかしこで言っていたらいつか勘違いする奴が出てくるんじゃないだろうか。


「俺はたとえなまえがどこの学校でも、絶対に見つけるけどな」


瞬間、頭から火が出そうなくらい顔を真っ赤にしたなまえは、それを隠そうと勢いよく机に突っ伏した。おでこをぶつけたのか、小気味良い音がしたが、本人は顔を上げようとはしない。


「な、なんでそんな恥ずかしいこと……」
「さっきのお返し」


だが言ったことは本当だ。なまえがどこにいても見つけて、今と同じ関係になる自信がある。そもそも草むらに平気で頭を突っ込む人間のどこが目立たないのか、なまえの基準はすこしおかしいのではないだろうか。


「それに俺は王子らしいからな、迷子のお姫様を探すくらい簡単なことさ」


たっぷりと含みを持たせて言うと、今度は机の下から物置が聞こえてくる。どうやら驚いた拍子に足をぶつけたようだ。
出会ったときと何一つ変わらない反応に、自分の口元はさっきからずっとにやけっぱなしだ。

返事を催促するようになまえと名前を呼ぶと、ゆるゆるとその頭が持ち上がる。目を合わせようとしないなまえだが、それでもさっきの台詞が気になるのかちらちらとこちらを見てくる。


「あ、あの次郎くん……それってどういう意味、」
「おい佐久間、アイス買ってきたぞ!」


いいところだったのに。飛び込んできた姿を一睨みすれば、辺見は意味が通じてないのか向こうも睨み返してきた。
その後ろでは意味の通じた数人がにやにやする中で、源田が申し訳なさそうに手を合わせる。

気づけばいつの間にか雨音は消え、窓の外からは薄光が射し込んでいる。


「みょうじの分もあるから、遠慮せずに食べてくれ」
「そうそう、先輩たちの驕りなんだから食べないと損だよ」 


さっきまではなまえと二人、静かだった部室があっという間に賑やかになっていく。自分のことしか見ていなかったなまえが、今は寺門と成神の間でころころと表情を変えている。それを見ているのも嫌いではないけど、もうすこし雨が降り続いていたら……と考えてしまうのも仕方ないだろう。

/告白前


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