私ときたら、すこし調子に乗りすぎたらしい。

瞳子監督からのメールによると、今日はお日さま園ではなく、お寺の階段を使ってトレーニングをしているらしい。
そこへテーピングテープとスポーツドリンクを買って届けるのが今日の私の仕事だ。こういった買出しを良く頼まれるため、瞳子監督からはお財布も預かっている。

男子十人余りの分のスポーツドリンクといえばかなりの量だ。店員さんが見かねてダンボールに入れて持っていく?と聞いてくれたのを断ったのはそう遠い昔ではない。
おかげで今目の前には持ち手の裂けたレジ袋と数本のペットボトルがある。


「いけると思ったのに……」


重かったら誰か一人呼べと言われてはいたが、このくらいと油断していたらレジ袋のほうが耐えきれなかったとは。一応二重にはしていたのだが、大した効力は発揮しなかったようだ。

ペットボトルを集め、道の端に腰を下ろして唸ってみても、妙案は浮かんでこない。
ただそのとき見知った青いジャージが私の前を通り過ぎた偶然を、黙って見過ごすわけにはいかなかった。


「ちょ、ちょっと待って!」
「ああ?」


いきおいのまま立ち上がり、ジャージの裾を掴んだはいいが、振り返った彼を見て凍りついた私とその彼は、刹那同じ表情をしていた。


「ふ、不動……くん……」


名前を呼ぶとその鋭い眼光が更に険しくなった気がした。迫力に怖じてうっかり手を放すと、彼は舌打ちをして再び足を進め出した。

思わぬ人物と再会した動揺と、どうにかこの荷物を運ばなければならないという義務感が混ざりあった結果、私はここが往来だということを忘れ叫んでいた。


「あの、これ運ぶの手伝ってくれませんか!」


驚いて動きをとめた不動くんの腕にやや強引にペットボトルを渡す。
なんで俺が、とか言っているのが聞こえたが、その目をしっかりと見据え、お願いしますと頭を下げると溜息ひとつで了承してもらえた。

彼をネオジャパンの皆とあわせるわけにはいかず、目的地のお寺のちょっと手前までお願いすると怪訝な目で見られる。


「ふうん、なかなか面白そうなこと企んでるじゃねえか」


不動くんの頭の切れ味はサッカー以外でも発揮されるらしい。
彼の隣で同じようにペットボトルを抱えて歩きながら、思わず視線をさ迷わせた。どう誤魔化そうかと言葉を探していたら、それより先に不動くんからとどめを刺される。


「別にバラしゃしねえよ、こんな面白いこと。どこかの負け犬と企んでんだろ?」
「皆のこと負け犬って言わないで。そんなこと言ってると、後で後悔することになるんだから!」
「俺がそんな奴らに負けるかよ」


あいも変わらず口は非常に悪いが、彼の歩く速度は私と同じだ。ちらりと横顔を盗み見るが、あ?と一蹴されてしまった。


「……不動くんは、ここでなにしてたの?」
「練習のないときになにしてようが俺の勝手だろ。みきチャンはそんなとこまで気になるわけ?」
「うん、気になる。私、不動くんのこともっと知りたいから」


私はまだ、不動くんがなぜあんなことをしたのか、なぜあんなに力を欲していたのかを知らない。
理由を知れば彼のしたことを全て許せるというわけではない。それでも私は知りたいのだ、彼のことを。


「はっ、くだらねえ」
「くだらないって……さっきからひどいなあ」


吐き捨てられた言葉に苦笑していると、不動くんは不意に足を止めるとその場にペットボトルを下ろし、来た道をすたすたと戻っていってしまった。


「え、ちょっと……」
「おーいよこうち!大丈夫か?」
「あ、源田くん」


曲がり角の向こうに言ってしまった不動くんを目で追っていたら、後ろから現れた源田くんに呼ばれて振り返る。
彼は瞳子監督に言われて来たらしい。さすが監督にはなんでもお見通しのようだ。


「それにしてもここまで一人で運んできたのか?大変じゃなかったか?」


心配してくれる源田くんには悪いが、さっきの不動くんの行動や彼がイナズマジャパンに在籍していること、過去の行いをあわせて考えるとその名を出すのはあまりよくないだろう。

不動くんが持っていた分のペットボトルをまるまる源田くんが抱えあげると、次は彼と並んで歩き出す。


「……あのね、友達が手伝ってくれてたの」



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