「俺たちは代表選手に選ばれるどころか、選考試合にすら呼ばれなかった……!」


悔しさに震える拳が、ひどく胸を打った。と同時に、その悔しさは私も感じたことのあるもので共感をよんだ。

グラウンドから飛んできた源田くんは、瞳子監督と一緒に私をここに呼んだ理由を話し出した。
代表選手になれなかったこと以上に、その選考の場に呼ばれることすらなかったことが悔しいと。
だが今回の大会は、公式に代表選手の入れ替えが認められている。世界の舞台に立つチャンスがないわけではない。監督に力を認められれば代表選手になることができるのだ。


「だが生憎、俺たちには時間も人手も足りない……。そこでだ、」
「うん、わかった。部活が終わってからとかになるけど……出来る限りのことは手伝うよ」


最後まで話を聞くよりもはやくに言葉が口を出ていた。
私が即答するのは意外だったのか、言葉を詰まらせた源田くんに代わり、瞳子監督が返事をする。


「ありがとうよこうちさん。あなたも忙しいとは思うけど、他に人もいなくて」
「いえ、出来ることならなんでもするんで、遠慮なく言ってください」
「じゃあ早速なんだけど……」









イナズマジャパンに勝負を挑むチーム「ネオジャパン」の皆の紹介や、瞳子監督が私に頼みたい雑用の説明を受けた後、すぐに練習は再開された。
慣れない作業に手間取ることも多かったが、なんとか最後までやり遂げることが出来たのは偏に周りの皆のおかげだ。

とくに砂木沼さんは私のことを気にかけてくれていて、すこし申し訳なくなった。
初対面のはずなのにどこかで会ったことがあるような既視感。そう伝えれば焦ったように言葉を濁されたので、もしかすると彼は有名な選手でテレビなどに出たことがあるのかもしれない。


「なあよこうち、本当によかったのか?」
「いきなりどうしたの?源田くんから言ったことのに。変なの」


夕方まで練習は続き、空が暗くなってきた頃、ようやく解散となった。
成神くんがーー彼もネオジャパンに参加していたーー家まで送ると言ってくれたけど、年下にそんなことをしてもらうわけにはいかない。駅まで一緒に行くということで話は決着したのだ。

そしてその帰り道には当然、方向が同じ源田くんと寺門くんもいた。
初対面というわけでもないので、楽しく会話をしていたとき、ぽつりと源田くんが呟いたのが今の言葉。


「意外かもしれないけど、源田くんが誘ってくれて私嬉しかったの」
「えー、俺なら絶対嫌だな。そりゃあみき先輩が引き受けてくれて良かったとは思うけど、ぶっちゃけ嫌なら断ってもいいんすよ」
「あはは、心配してくれてありがとう。でも本当に大丈夫だよ」


部活があることは源田くんも瞳子監督も分かった上のこの話だ。いくら今の季節、部活動が穏やかだと言っても決して手を抜いていいものではない。

ネオジャパンの皆の力になりたいというのは本当だけど、それは私の一番ではない。あくまで無理のないように、出来る範囲でお手伝いするだけだ。


「それでもね、頼ってもらえるってすごく嬉しいの。私のこと信頼してくれてるってわかるから」
「よこうち……」


もちろん他の皆が私のことを信頼していないという訳ではない。ただやはり、わかっていても改めて言葉に出して頼られるというのは嬉しいものだ。


「でも、俺たちはイナズマジャパンに勝負を仕掛けるんだ。イナズマジャパンには雷門の奴らも多勢いる」


なるほど、源田くんは私がネオジャパンに協力することで、円堂くんたちとの間に亀裂が入ることを心配してくれていたのか。
たしかに少し前の私なら、負ける悔しさを知る前の私ならそういったことも気にしたかもしれない。


「でもルール違反をしてるわけじゃない。公式で選手の入れ替えは認められているし、強い人が代表になるのは当たり前だもの」
「それはたしかにそうだが……」
「イナズマジャパンの皆が負けたらそれは皆が弱かっただけだし、きっと円堂くんたちは気にしないと思う」
「……そうだな。余計なことを言ってすまなかった」


もちろん私は円堂くんたちがそうやすやすと代表の座を渡してくれるような相手だとも思っていないが、源田くんたちが代表になる可能性も低くないと思っている。

選考試合に呼ばれなくて、悔しくて、それでもサッカーが好きで……そういった人の強さを私はよく知っている。
勝負というのものにはどうしても勝者だけでなく、敗者が誕生するが、負けることは悪いことばかりではない。そこから学ぶものもたくさんある。

「せっかくのチャンスだもん!がんばろうね!」
「ああ、明日からもよろしく頼む」


試合までの時間は短い。
私が彼らにしてあげられることはもっと少ない。
それでも私に出来る全てを出し切って、源田くんたちと一緒に勝ちたいと思った。

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