「えーと、今のは瀬方くんが三秒遅れてた、と思う」


そう告げれば瀬方くんは悔しそうに髪の毛をかきあげた。

必殺技完成の為に朝からずっと砂木沼さん、瀬方くんがくん、伊豆野くんの三人で練習しているのだが、やはりなかなかうまくいかない。
三人での必殺技なだけあって、どれだけ息を合わせられるかが鍵となっている。

技を教えてくれた武方くんはもともと兄弟でこの技を使っており、タイミングの合わせ方はさすがに兄弟のそれと他人同士では全然いいよ違うようだ。


「よし、一度休憩しよう。よこうちも朝から疲れただろう?」
「うん、ちょっとだけ」


瀬方くんはまだいけると主張していたが、砂木沼さんに言葉を重ねられるとタオルを引っつかんでどこかへ行ってしまった。


「おい瀬方っ!」


慌てて伊豆野くんが追いかけていく。その手にはしっかりと瀬方くんの分の水分もあったから、彼のことは伊豆野くんに任せたほうがよさそうだ。

近くの人ベンチに座り、帽子を被り直すと大粒の汗が落ちてくる。
夏空の下、休憩なく練習していたら効率が悪いだけじゃなく倒れてしまうかもしれない。


「……焦っているのかもしれない」


私の隣に腰を下ろした砂木沼さんがぽつりと呟いた。


「それは、瀬方くんのことですか?」
「いや、私たち全員のことだな。通常より短い時間で強敵に挑まなければならない。その思いが知らぬ間に焦りを生んでいたのだろう」


たしかにイナズマジャパンのメンバーには、あの日本最強イレブンの名前がいくつもある。アジア予選の優勝候補だったビックウェイブスにも勝利しているのだからその実力は本物だ。
そんな強敵を前にすれば焦るのも無理はないのかもしれない。


「でもそれでいいのだ。肉体だけでなく、そういった精神の壁を乗り越えてこそ掴んだ勝利のこそ意味がある」
「精神の壁、」
「ああ。焦りや悔しさをバネにして強くなる。そうでなければ私たちは何も
変われていない」


砂木沼さんが例の宇宙人騒ぎの一員だと聞いたのは、私がはじめてお日さま園を訪ねた日だ。ネオジャパンのメンバーには他にも数人そういった人がいる。
私もあの事件に全くの無関係というわけでもないので、瞳子監督から一通りの事情は聞いていた。


「……砂木沼さんはもう十分強いです。ううん、瀬方くんも伊豆野くんも皆強いと思います。だって自分の弱い部分に向き合ったからここにいるんですよね、それって誰にでも出来ることじゃないです」


自分の弱さを認めたからこそ、彼らはここに集まった。強くなる為に。
その強さを悪事に利用されることも、その弱さにつけこまれることも、今の彼らは絶対にしないだろう。


「たしかにまだ必殺技は成功してないけど……なにも変われてないなんてこと、ないです」
「みき……すまない、気を使わせたようだ。だが、ありがとう」


優しい笑みを浮かべてこちらを見る砂木沼さんに、テレビで見たあの恐ろしい宇宙人の姿はどこにもなかった。

軽くなったペットボトルの中の水分を飲み干し、木陰の涼しいベンチから立ち上がる。


「私、瀬方くんたち探してきます」


グラウンドを飛び出し、どこへ行ってしまったか分からない二人。近くにいるのだろうが、この時間帯影になっている場所というのは限られてくる。きっと陽の下にいるに違いない。

砂木沼さんはここで待っていて下さいと言葉を続けようとしたが、彼はそれを予測していたのか否定の言葉と一緒に立ち上がった。


「いや、私も行こう。おそらく見つけづらいところにいるだろう」
「瀬方くんのこと、よく知ってるんですね」
「ああ、ずっとここで一緒に過ごしてきたからな」



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